消えた凶器

halhal-02

消えた凶器

 僕は一仕事終えた後、手に持っていた竹刀しないを見つめた。一部は割れ、あちこちささくれ立っている。


 このささくれを削るのはまた後だな、とぼんやり考えた。




 と、そこへピンポーン、と玄関チャイムが鳴る。インターホンの画面を見ると二人組の警察官がいた。


 どうやら隣の家で死体が見つかったようだ。だが凶器は見つからないだろう。


 凶器はにあるのだから。




 僕と隣人の間に何があったかはどうでも良い。騒音とかうちを覗いたとかよくあるトラブルだと思ってくれれば良い。


 僕は竹刀を玄関脇に立てかけると、何食わぬ顔でドアを開けた。


 型通りに挨拶をすると、警察官はそれぞれ身分証を提示した。特にさえない風体の警察官は掛川というらしい。


 掛川は簡単に隣の家で起きた殺人事件について述べた。隣人は棒状の鈍器で頭部を殴られて絶命したらしい。


「……というわけでして、何かお気づきの点などあれば」


 僕は何も知らないと答える。


 ここで訳知り顔でちょっかいを出すから犯人は捕まるのだ。


「もういいですか? 今から銀行に行くんですよ」


 僕はそう言って重い手提げカバンを見せた。


 掛川は「そうですか」と頷きつつ玄関脇に置いた竹刀に目を向けた。少しだけ心臓がざわつく。


「随分と痛んでますね」


「ええ、後で手入れしようかと」


「見せていただいても?」


「ええ」


 掛川はささくれ立った竹刀を手に取る。


 もう一人の警官が「そんな竹刀で殴ったって簡単には死にはしないよ」とのたまう。


 そう、こんな竹刀では一撃で人を殺せないだろう。それにビニール袋を巻いて殴ったからこの竹刀からは何も出ないはずだ。


「ええ、でも中に金属の棒を詰めたらどうでしょう?」


 は?


 急に何を言い出すんだ。


「そりゃあ、中に詰め物があったらわからんが」


「そうですね。——例えば十円玉を棒状にして詰めたらどうでしょうかね?」


 掛川は僕を見ていない。


 なのに淡々と話は進んで行く。


「うん、十円玉で五十枚がこのくらいだから、六千円あれば足りるかな。ほらお店とかで見るでしょう? 棒状に包まれた硬貨って。あれをしっかりとテープか何かでまとめて——うん、竹刀に詰めて一振り」


 掛川がそう言った時、僕の手から手提げカバンがゴトリと落ちた。



 完

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