健全な少女……のはず。

入江 涼子

第1話

   私は高校3年生だ。


  ただ、友人は人並みにいるが。彼氏は1人もできた試しがない。一応、健全な高校生のはずなのにだ。何故だろうと首を傾げる。仕方ないので隣にいる友人でクラスメートの蓉子に訊いてみた。


「……ねえ。蓉子」


「ん。どうかした?」


「なんで私って彼氏ができないのかな?」


  疑問をストレートに言うと蓉子は目を少し見開いた。どうしたのだろう。蓉子はたっぷり3分くらいは黙り込んだ。そして目を逸らしながら答えた。


「……それは。あんたの気のせいよ。いつかはできるって」


「本当にそうかなあ」


「……八重。それよりも数学の課題はもうやった?」


  何故か、話をそらされた。納得がいかない。私はじとっと睨みつける。


「蓉子。私は真面目に言ってるの」


「あー。もうわかったよ。あんたに彼氏ができないのはね」


「うん」


「……あんたのお兄ちゃんが牽制しているのと。あたしがいるからできないの」


「………お兄ちゃんがね。けどなんで蓉子がいるとできないの。それが今ひとつ分からない」


  うちのお兄ちゃん--勝男かつおというのだが。結構、強面であり腕っぷしも強い。しかもどうしようもないシスコンだった。惜しいなあ。お兄ちゃん、意外と強面好きの女子にもてていたのに。


「えっと。あたしね。こう見えて勝男先輩程じゃないけど。腕っぷし強いし。何よりヤンデレで女の子が好きなんだ」


「……」


  私は頭と体がフリーズした。今、蓉子はなんといった。ヤンデレで女の子が好きだとう?!


「あ。ごめん。やっぱり引くよね」


「えっと。じゃあ、蓉子にとっては私って。タイプなの?」


「……うーんと。そうでもないんだよね。八重の場合、勝男先輩がいるからそういう意味でのお付き合いはできない」


  私はひとまず蓉子の答えにホッとする。もし、「あんたはタイプよ」と言われたらどうしようかと思ったよ。


「んじゃ。数学の課題。できてないんだったらあたしが教えるから。今からやろっか」


「そうだね。まだ、解けていない問題があるから教えてよ」


  こうして私は蓉子と共に放課後の教室にて数学の課題を終わらせたのだった。


  夕方になり自宅へ帰る。うちは和風の一軒家だ。両親とお兄ちゃん、私、弟の5人家族だった。


「ただいまー」


「お帰りー。遅かったな」


「うん。蓉子と課題をやっていたらこんな時間になっちゃった」


  そう言うと出迎えてくれた長身の強面男もとい、勝男お兄ちゃんは苦笑いした。意外と笑うと優しい表情になるんだよね。


「……ふーん。けど八重。蓉子ちゃんと一緒だったとはいえ。居残りするのは褒められた事じゃねえぞ」


「……ごめんなさい」


「まあ。いいだろう。それよりも着替えてこいよ。夕飯の準備、もうできてるぞ」


「はーい」


「……八重。あんまり心配さすなよ」


  ぼそりと言われたが。よく聞こえない。仕方ないので頷いておく。そうした後で2階の自室に向かったのだった。


  制服から部屋着に着替えた。自室を出ると洗面所に行き、手を洗う。そうしてから台所に行った。


「……八重。夕飯、できてるから。早く食べちゃって」


「はーい」


  お母さんの言う事に頷き、椅子に座る。お箸を持って「いただきます」と言った。ホカホカと湯気の立つ白ご飯を口に運ぶ。おかずのほうれん草のおひたし、揚げ出し豆腐、お味噌汁。一緒におひたしを口に入れてむぐむぐと噛み締めた。


「……うん。うまい!」


「……八重。うまいもいいけど。美味しいじゃないの。普通は」


「いいの。お兄ちゃんも言ってるじゃん」


「まあ。それはそうだけど」


「お母さん。揚げ出し豆腐、美味しい」


  とりあえずは言い直した。お母さんは呆れ顔だが。私はその後も舌鼓をうつのだった。


  ひとまず、自室に戻ると着替え用の服をクローゼットから出す。お風呂に入るためだ。それにしても今日は驚いたな。まさか、蓉子が女の子が好きでヤンデレだったとは。幸い、私は圏外らしいが。それを考えながらも下着とシャツにズボンを出した。自室を出るとお風呂場に直行する。脱衣場にあるタオルを持った。着替え用の衣類は洗濯機のヘリに引っ掛ける。お風呂場のドアを開けるともうもうと湯気が立ち上った。タオルをガラス棒に引っ掛けてからドアを閉めた。シャワーの蛇口をひねってお湯を出した。体を濡らしてからスポンジにボディーソープをつける。泡立ててざざっと全身を洗う。泡を流してからシャンプーとコンディショナーをすませた。洗面器にお湯を汲んで肩からざばっとかける。2、3度して洗面器をタイルの上に置く。浴槽に足を入れてお湯に浸かった。


「はー。いい湯だな〜」


  不意におじんくさい歌が出る。しばらく浸かってから全身の水気を拭く。お風呂場を出るとがしがしともう1枚のタオルを取って髪の毛を拭いた。下着とシャツなどを着ると使ったタオルをぽいっと洗濯カゴに入れる。そうしてから脱衣場を出たのだった。


  夜の10時になり寝る事にした。蛍光灯を消そうと立ち上がったらスマホがピロリと鳴る。チェックするために立ち上がり机の上にあるスマホを手に取った。ボタンを押して操作する。チェックすると蓉子からだった。メールでこう書いてあった。


 <八重へ


  今日はごめんね。でも本命の子は女の子なんだ。


  その子、隣のクラスの子でね。


  告ったらOKしてもらえたんだよ。


  浮気したら監禁ルートまっしぐらだけど。


  蓉子>


  最後の監禁ルートという文を読んで私は身の毛がよだつのを感じた。本命の子よ。早く逃げて!!


  --完--


 


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