焼肉

ジャック(JTW)

第1話 焼肉


 家で焼肉をした時の話。

 本当は炭焼きがいいが、バーベキューの音や臭いはご近所の迷惑になるので、今日はホットプレートで焼く。


 温めたホットプレートの上に、牛脂を滑らせる。お肉屋さんのおまけで貰ってきたやつだ。無料ってありがたい。

 ホットプレートの上をスイーと滑っていく様はまるでスケートリンク。温度は真逆だけどいつも連想する。


 牛脂がホットプレート全体に行き渡った後、まずは野菜を焼く。人参や玉ねぎは厚めに切るのが好みだ。低音でじっくり火を通しつつ、牛脂のいい香りを楽しむ。

 そして待ちに待ったメインディッシュ、美味しい美味しいお肉をそっとホットプレートの上に敷く。

 上下ひっくり返して満遍なく火が通るように。昔はあまり火が通っていない方が好きだったが、今はしっかり火を通した肉の美味さも理解できる年頃になった。

 大人になるっていいもんだなあ。


 牛脂の香りと肉が焼けるジュワー……という音が鼓膜を震わせる。野菜もいい感じに火が通り始める。私は焼肉の時の野菜のうまさに目がない。特にじっくり時間をかけて加熱した人参の美味さたるや、メインの肉に勝るとも劣らないと思う。


 厚めの人参をタレに絡めて口に入れて噛む。ホロッと砕ける。じんわりと甘い人参が口の中に満ちていく。分厚い人参を噛み砕く時の、なんとも言えない食感が好き。


 次は玉ねぎ。人参に比べれば火が通りやすく、生でも食べられないことは無い。しかし、くたくたになるまで火が通った玉ねぎの方が好きだ。焼肉に限れば、ちょっぴり焦げかけているのもいい。しっかり加熱されていても、玉ねぎはちょっぴりシャキシャキ感が残るのもいい。


 そしてキャベツ。キャベツはすぐ焦げてしまうので、サッと回収して食べねばならない。牛脂の香りがほんの少しだけついたキャベツにタレをつけてかぶりつくと、若干パリッとした音が鳴る。噛み締める度に、パリッ、シャクッ、という音がするのがなんとも心地いい。食事は聴覚でも楽しめると私は思う。


 そして本日のメイン・ディッシュ、お肉様。


 どこの部位かは知らない。これほど食に対する執着があるにもかかわらず肉の部位を理解していないのは我ながらどうかと思う。あまり贅沢ができない身なので、肉の部位で選り好みするのをやめたのだ。

 肉は、美味いか美味くないか。それだけでよい。


 しっかり火が通り、さあお口に入れてくださいと言わんばかりの焼き具合。素晴らしい。タレはつけすぎずに、まずちびりちびりと食べ、よく噛んで味わう。


 うん、今日のお肉は当たりだ。ちゃんと肉の滋味を感じられる。個人的に霜降りはあまり好みではなく、赤身が多い方が好ましい。赤身をゆっくり噛み締めると、牛肉の味が舌の上に広がっていく。奥歯でもしっかり噛んで、肉を味わいきってから、欠片をごくんと飲み込む。

 美味〜〜〜〜〜〜〜い。


 ニンニクを効かせたタレと、肉の相性は抜群。最高。噛めば噛むほどうま〜〜〜〜い。肉の味、特に牛肉の味は形容が難しいのだが、独特な風味と香り高さ、食感、柔らかさ、肉自体に閉じ込められた肉汁など、全部美味い。

 タレと肉がお互いがお互いを引き立てあって、無駄がない組み合わせにご飯もよく進む。おかわり!したいくらいである。

 しかし今日は具が多いのでご飯は控えめに。

 まだまだ野菜もお肉もある。ジュージュー……ジワー……といい焼け具合の野菜がもうひとつ。


 私が大好きなのは茄子。スポンジ状なので、油をたっぷり吸ってしまって、かなり重たい。量が多く食べられないのが難点だが、焼肉の定番野菜である。ひとくち食べるとグワーッうまい!となり、味覚が全部茄子に支配される。

 よく焼けたトロトロふわふわの茄子と、牛脂の香りと、タレの辛さと甘みが絶妙に混じり合い、バクバク食べたくなってしまう。茄子、焼肉なのに肉を差し置いてトップランカーに並びかねないレベルの美味さである。茄子をこんなに美味く品種改良した人は誰だ。世界中のありとあらゆる賞を与えたい。


 玉ねぎ、肉、人参、肉、キャベツ、茄子、また肉。

 焼いて食べて焼いて食べてを繰り返し、あれもこれも美味しい美味しいと食べている。

 そのうち、すっかりお腹が満腹になった。


 食後に飲むのは、温かい淹れたての緑茶。

 緑茶で喉の乾きを満たしながら、満腹でにこにこしている時間は、至福である。

 はあ……幸せ。ご馳走様でした……。



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