世紀の大発明
青樹空良
世紀の大発明
私はその発明に人生を捧げていた。
これは私にしか出来ないことだ。
他の誰もやろうとはしない。前人未踏の発明だ。
かなり特殊なことなので、後ろ指をさされるようなこともあった。
だが、どれだけ人から馬鹿にされようと構わない。
私は研究を続けた。
もちろん、私はこの発明を待っているであろうものたちのいる場所へもよく足を運んだ。
彼らがこの発明を待っているかどうかはわからない。まだ、私の発明品が完成していないのだから当たり前だ。
が、
「待っていてくれよ」
私は一人、呟いていた。
彼らも、私がそれを完成させるのを待っていてくれると信じたい。
そして、
「やった! 出来たぞ!」
ついに発明品は完成した。
これで私の人生は報われる。
人から笑われたりもしたが、完成品を見れば大勢の人が喜んでくれるはずだ。
沢山の人が救われる、ようなものでもないが、全米も泣くかもしれない。
とにかく、人類にとってもあちら側にとっても、これは重要な発明品になるはずだ。
◇ ◇ ◇
結局、記念式典なんかも行われることになった。
新しいものや珍しいものに人間は弱い。今まで散々馬鹿にしてきたくせに、虫がいい。
だが、そんなことはいい。
これで、私の発明が認められる。
なにより私自身が一番嬉しい。
ようやくこの発明品を試すことが出来る。
そして、あの愛すべきものたちを幸せにすることが、きっと出来る。
ああ、とても楽しみだ。
私は発明品を持って、大勢の人に見守られていた。
記念式典には大勢の人が訪れていた。興味津々な様子で、私の発明品を見ている。
研究のために引きこもっていることが多くて、あまり人前に出ることがないのでかなり緊張する。
「世紀の瞬間まであと少しです。博士、準備はいいですか?」
司会者が言う。
私の胸は高鳴った。
「はい」
私は頷いて、それの前に進み出た。
そして、私の人生を掛けた発明品をそっと差し出す。
それは、何かを言った。
発明品のモニターに、それの言葉が入力されていく。
「博士、一体なにを言っているんですか」
「待ってください」
私は、じっとモニターを見る。
「ささ、くれ……。ささくれ」
それは同じ語句を繰り返す。
「笹、くれ……。笹くれ、です! 笹くれ。パンダのヤンヤンは笹くれと言っています!」
私は高らかに言った。
わっと動物園のパンダ舎の周りに集まった人たちから歓声が上がる。
一番喜んでいるのは子どもたちのようだが、それでいい。私は子どもの頃からパンダが大好きで、彼らの言葉を理解したいと思ってきた。
それが今日、報われた。
子どもの頃からの夢が叶った。
私はヤンヤンに向かって語りかけた。
「本当に笹、好きなんだね」
世紀の大発明 青樹空良 @aoki-akira
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