【KAC2024 4】 相棒はパンダ

かきぴー

第1話

 俺の相棒はパンダだ。風貌がとか、コードネームがとかではない。本当にパンダだ。

 そんなマンガみたいな話があるのか? 俺だって最初はそう思った。しかし、さすがケモノ。機敏な動き、物理攻撃に強い体、圧倒的な筋力。裏社会の仕事にはうってつけだと思われた。

 ただ、短所もある。なんにせよ、目立ち過ぎる。一般人、特に子供と警察には何度も足止めされた。その度に、イベントの着ぐるみです、とか、デパートの屋上にある乗り物の高性能タイプです、AI制御ロボットです、など、くるしい言い訳をするのは俺の仕事になってしまった。


「なぁ、なんでその格好なんだ。俺の身にもなってくれよ」

「オレはパンダだからな。それ以上でもそれ以下でもない」


 憂いを帯びた(ように見える)顔で言われると、二の句を告げることはできなかった。というか、パンダが人間の言葉を話すことに誰も疑問を感じないのだろうか。

 あとは際限ない食欲だ。常に笹を食べている。パンダという生き物は1日の3分の2は睡眠時間で、起きている間はほぼずっと何かしらを食べているのだそうだ。だから任務中もずっと口を動かして、食べ切ると俺に笹くれ、笹くれ、と譫言のように言うのだ。


「自分の食糧は自分で持つ気は無いのか?」

「オレはパンダだからな。ポケットがない」

「リュックしょえよ」

「なで肩なんだ」


 不毛な会話を何度繰り返したことか。結局上からの指示で、笹の入ったカバンを持つのが俺の仕事になってしまった。


 しかし、今、俺の雑用のような仕事も終わろうとしている。パンダが瀕死の状態なのだ。いつものようにターゲットの家に忍び込んだが、待ち伏せされていた。パンダの大立ち回りもあり、無事ターゲットを始末することに成功したのだが、その途端、パンダが膝から崩れ落ちた。


「おい、どうした。どこかやられたのか? いや、相手の攻撃など全く当たったようには見受けなかったが」

「畳に毒が塗られていたようだ」

「毒?」


 驚く俺にパンダは足の裏を見せた。そこにはささくれた畳が無数に刺さっていた。


「すいばりから毒をもらっちまった……」

「すいばり?」

「これ」

「ささくれのことか?」

「ああ、標準語ではそういうのか」

「すいばりは聞いたことない」

「広島とか山口ではみんなそう言う」

「パンダ……お前中国地方の出なのか」

「ああ、オレはパンダだからな……ガクッ」

「パ……パンダぁっっっっ!」



【おしまい】

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