テトラの小さな世界(ミニ版)

めいき~

テトラの小さな世界

ボクは、ネオンテトラのテトラ。


この、小さな箱の中の世界で生まれたんだ。


ボクの仲間は沢山いるけど、最近モーリーの元気が無いんだ。



「テトラじゃないか、どうしたんだい?」


「モーリーさ、最近元気ないじゃないか」



「あぁ……、俺は大食漢だからさ。最近、エサが少なくてね」


そういって、少し上に頭を向けた。



蛍光灯の偽物の光が、眼に眩しくて。




「エサは、いつも沢山いれてくれるじゃないか」


「最近さ、ゼブラダニオの奴が全部食っちまって下まで落ちてこないんだよ」


あ~、とテトラが泡を一つ。



「だから、最近は元々そうしてた様に水草ばっか食ってたんだけどさ」


うんうんと、頷くテトラに言った。


「最近、水草も無くなっちまって……」


そういって、寂しそうに水草が揺れているのを口で指し示した。



「早く、新しい水草を入れてもらえるといいね」


「それまでは、コケでも食べて凌ぐさ。あれ、全然腹が膨れないからこうなめとる様にしないととれないし面倒で」


「あの白い棒は、なるべく綺麗にしておいて欲しいけどね」


「あの白い棒の様なものは、良いなぁあそこの近くだけ凄く温かいからな」



二匹が、地面に置かれているミニの蛍光灯の様な形の棒に視線を動かす。



「今年も、寒くて凍えそうな時は皆であの棒の近くで過ごすんだ」


「いつもはエサで張り合ってる連中も、寒くてそれどころじゃない時はみんなあの棒の周りをゆっくり泳いでるしね」



「俺達もさ、この場所に生まれて住んでる奴らはみんなあれのお世話になるんだよな」



それは、まるで魚達の揺り籠の様にそこにある。

あれの近くの水草が、元気に揺れる度。あの棒の近くだけは……、みんな仲良く譲り合って生きてる。



この世界に響き渡る様に、染みわたる様に。

あんな偽物の光よりも、余程ボク達を温めてくれる。




心も水も、温かい。




ある日、あの白い棒が無くなった時は皆で大騒ぎになったっけ。



しばらくしたら、あの棒は戻って来た。



「良かった……」水槽の皆からそんな声があちこちから聞こえてきて。




「また、争ったら棒がいなくなるんじゃないかと思ってさ。みんな不安でしばらくは仲良くやってたよね」



「あぁ、すぐにまたエサを取り合う様になっちまったけどな」


「また、あの棒がいなくなればいいのにね」


「よせやい、あれが無くなったら俺もいよいよ凍えてめされちまう」


「この世界に住む魚は、みんなあれのお世話になるからね」


そういって、テトラとモーリーは口をパクパクと動かした。





これは、小さな世界で毎日泳ぐ熱帯魚の世界の会話。


<おしまい>

-----------------------------------------------------------------------------------------------

超余計な話


※白い棒の正体は、水槽用のヒーターです。掃除して綺麗にするために水槽から取り出す事もあります。モーリーは少し大きめの魚ですが、強靭な生命力をしているので熱帯魚初心者に良く進められることがあります。(特にブラックモーリーなんて熱帯魚の癖にならせば塩水にも対応してくるぐらいです)でも、かわいそうだからちゃんと水草と淡水で過ごさせてあげようね。(´・ω・`)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

テトラの小さな世界(ミニ版) めいき~ @meikjy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ