同窓会

 それから10年くらい経った頃のことだった。


 美里とは、ある程度の距離を取りながらも、時々会っていた。私の仲間には会わせなかった。皆、美里に会うと疲れると言っていたから。

 もっとも、私も夫の転勤で、遠くに行ってしまっていたので、本当に滅多に会わなくなっていたのだけれど。



 ある日、私のところに一本の電話があった。丁度、里帰り出産で、実家にいた時だった。


 中学時代の同窓会事務局からで、学校の創立60周年の同窓会をするに当たって、うちの学年名簿を作ってほしい、との依頼だった。

 名字や住所、電話番号が変わっていないかどうか確認してほしいとのことだった。私は、私の知らないところで、同窓会役員になっていたのだ。誰かが勝手に書類を書いて出したのだろう。


 私は、当然の如く断った。


「無理です」

「何でですか?」

「体調が悪くて、絶対安静なんです」

 実は、私は妊娠8ヶ月。切迫早産で、本当に絶対安静の状態だったのだ。

「そうですか。では、代わりの人を見つけて下されば、大丈夫です」

「わかりました」


 電話を切り、すぐに美里に電話した。

 地元で仕事をしていて、そんなに忙しくはなさそうだったし、何より、私の頼みだ。聞いてくれるに違いない。そう思っていた。


「え〜、無理だよ〜」

「お願い! 私、ホントに動けないんだよね」

「え〜、だって、あたし、事務局の人たち苦手なんだもん」

 そんな、小学生みたいな理由で断られてしまったのだ。

 

 結局、他を何件か当たってみたが、皆、家庭や仕事の関係で無理だった。

 私は、事務局に電話して、代わりが見つからなかった旨報告し、そちらで何とか手配して下さいと言った。


 その電話から半月後に、同窓会の案内が来た。私達の学年の代表は、隣のクラスの学級委員をしていた水野みずの君になっていた。

「そうだよ。最初から水野君にしとけば問題なかったじゃん」

 そう思いながら、その下の欄を見た時だった。


 協力者の名前が数人載っている中に、美里の名前を見つけた。

 私が、命がけで頼んだ仕事は受けてくれなかったのに、昔、自分が憧れていた水野君の依頼は、喜んで受けたのだ。



 信じられない。……許せない。

 私が、ついにキレた瞬間だった。


 

 美里は、その後、同窓会の様子を話しにやってきた。勝手にズカズカあがってくる。当たり前のように。私の心にもそうであったように。


「何で来なかったの〜? 楽しかったよ〜」

 人の話を聞いていなかったのか? 私は大変な出産をしたというのに。


 私は、もうこれ以上仲良くする気はなかった。美里は、私の異変に気付いてか、さっさと帰ってしまった。



 その後、年賀状も返さなかった。

 結婚式の案内状には、何も書かずに、「欠席」に丸をつけて出した。


 美里はわかっていないかもしれない。

 何故、自分が無視されないといけないのかということも。

 私が彼女の何に怒っているかということも。

 それでも構わない。

 彼女に言いたいことは山ほどあるけれど。

 もう関わりたくもない。



 私は、四半世紀に渡ってひっかかり続けた「ささくれ」を、思いっきりもぎ取った。痛みもなく、血も出なかった。

 

 せいせいした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染 緋雪 @hiyuki0714

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ