仮面の笑顔

榊琉那@屋根の上の猫部

傷だらけだった頃

最後に心から笑ったのはいつの事だろう?

いや心から笑った事など無いのかも。

笑っているように見えたのは笑顔の仮面があるからか。



何の因果か一人暮らし。そんな気持ちはなかったはず。

それでも一人になりたいと。親への反発、ただそれだけ。

恨み辛みはなかったけれど、ただただ居場所が欲しかった。


予備校含めた5年間。親元離れて初生活。

せめて負担はかけたくないと、働きながらの二重生活。

全て一人でやらねばならぬ、そして負担が襲い掛かる。

勉学の負担、体の負担、精神の負担、心の負担……。

ひびにアカギレ、そして指にはささくれがポツリ。

ボサボサ頭に無精髭。とても人には見せられない。

心の底にもささくれが。それでも笑顔の仮面を被り

何て事ないと生活する。


勉強などは頭に入らず、留年ギリギリの綱渡り。

それでも折れずにいれたのは、ひとえに音楽があったから。

疲れた時の清涼剤。疲弊の時の魔法の薬。

当時の流行はワールドミュージック。

アメリカ、イギリス以外の国の曲。

アジア、アフリカ、中近東、南米、欧州、シルクロード。

今まで聞いた事のない、未知の地域の音を聴く。

まだ見ぬ景色を想像し、心にひと時オアシスを。


大学生活も折り返し地点。専門課程は都内の校舎。

しかし苦しい満員電車。毎度毎度はストレス溜まる。

卒業論文視野に入れ、しかし知識は得られない。

焦る気持ちが先に立つ。何とかなると楽観視。


それでも将来どうするか?期間延長出来はしない。

自分は何をしたいのか?自分はどう生きるのか?

答えを先延ばししたツケが来る。

一体どうすれば正解なのか?

わかってはいる、正解などは無い事も。


仮面の笑顔のその下は、傷に塗れた本当の顔。

笑顔というには程遠い、感情もない無表情。

貴重な時間を掛けたのに、得られるものは何もなし。


自分の底の奥底には、未だささくれた心がある。

笑顔の仮面で人には接し、波風経たぬ生活を。

わかっている、これが正解でない事も。

今しばらくの迷い道。






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