鬱陶しいもの

よし ひろし

鬱陶しいもの

「あ、ささくれ…」


 右の人差し指にささくれを発見。


「久しぶりに土いじりをしたせいかしら?」


 はぁ~

 大きくため息。


 ホント鬱陶しい。


 気づかなければささくれなんて、どうということもないのに、一度気づくとダメね…

 そう、気づかなければ、何とも思わないのよね。


 はぁ~


 あの人の浮気癖、いつになったら治るのかしら?

 最近はおとなしくしていたと思っていたけど――うまく隠していただけだったのね。

 どうせなら、ずうっと隠し通してくれればよかったのに――


 はぁ~


 気づいちゃったのよね。

 そうなるともうダメ。

 あの人の言葉、仕草、行動、すべてがいちいち気になちゃって、もう――


 鬱陶しい!


 はぁ~


 このささくれ、本当、鬱陶しい。


「もう――」

 爪でつまみ、くっと引きちぎる。


「痛っ!」

 失敗…


 紅い血の珠が、ぷっくりと盛り上がる。


 はぁ~


 ペロッ…

 血を舐めとる。


 でも、すぐに盛り上がる血の珠。


 ああ、鬱陶しい。


 鮮やかな血紅色。


 見ているうちに思い出す、数時間前の出来事――


 はぁ~


 あの人との浮気の証拠を押さえて、女を呼び出した。


 別れてくれない、目障りだから――

 単刀直入にズバリと言う。


 なのに、あの女――


 何が本気よ。

 好き? 愛してる?


 はぁ~


 本当に鬱陶しい。


 いいのよ、そういうの。

 とにかく、目障りだから、消えて――


 そういうと、あの女、自分のお腹に手を添えて、

 赤ちゃんがいるんです、ここに――


 はぁ?


 なに、それ、冗談でしょ。


 私がどれだけあの人の子が欲しいかわかってる?

 ネットで調べて、色々妊活してるのに――

 どうして、あんたなんかにあの人の子が……


 はぁ~


 鬱陶しい、いやもう、鬱陶しすぎて、すぐに目の前から消えて!


 思わず突き倒す。

 床に転がる邪魔者をさらに蹴とばし、ちょうど目についた観葉植物の鉢を持ち上げると、女の頭に――


 ドーン!


 はぁ~


 あの時噴き出た血も、これと同じ色だったわ…


 ペロッ…


 もう一度、指先の血を舐めとると、中断していた作業を再開した。


 後は土をかけて埋めるだけだ――

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鬱陶しいもの よし ひろし @dai_dai_kichi

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