フィルランカの小さな幸せ  パワードスーツ ガイファント外伝

逢明日いずな

第1話 些細な幸せ


 フィルランカは、カインクムと共に帝都の第9区画に新たな新居に引っ越し、初めての冬を迎えた。

 ジュエルイアンが二人の為にと用意した店舗兼家屋は広過ぎと言って良いほどだったが、フィルランカとしたら、カインクムと結ばれてから新築の新居に移り住めた事はとても幸せに思えていた。

 しかし、冬になれば内陸の大ツ・バール帝国の帝都はめ冷え込みも厳しい。

 外には雪は無いが風がふいていたので、時々、窓が軽く揺れる音がしていた。


 フィルランカは、カインクムと一緒にとった朝食を終わらせ、食器の片付けを行うため、食事をしていたテーブルからカウンターキッチンに食器を上げて水盤から手の届く範囲に置いていった。

 カインクムは、食事を終えて直ぐに工房に行ってしまったので、2階のキッチンにはフィルランカが一人だけだった。

 キッチン内には、飲料用にも使う水瓶が置いてあり、その下には水が溢れても問題無いようにトレーが置いてあった。

(水を井戸から運ぶ必要は無いけど、私の水魔法は安定しないから、水瓶を溢れさせてしまうのよねぇ。下に用意したトレーが有るから床が水浸しになる事は無いけど、溢れさせたり水瓶の半分しか溜まらなかったりと不安定なのは困るわ)

 フィルランカは水瓶を覗くと底の方に水が残っているのを確認してカウンターキッチンの上に置いた食器を確認した。

(あの程度なら1度綺麗に洗った後、もう一回か二回のすすぎもできるわ)

 水瓶を眺めながら考え事をしていると今度は天井を見た。

(でも、お茶の用意ができる程度の量しか残らないから、洗い物が終わったら水魔法で水を溜めないといけないのかぁ)

 右手を頬に当てて左手は右手の肘を持ち上げるように持っているとため息を吐いた。

(水魔法を使うから2階まで組み上げる必要は無いけど、魔法は好きじゃ無いのにぃ。……。魔法で出す水量が安定するなら水魔法もいいんだけど、溢れてしまうと大変なのよね。前の家の時は、時々、溢れさせて床の水をよく拭き取ったわ)

 懐かしそうな表情をすると肩を振るわせた。

(ああ、ここのところ寒い日が続いていたから、変な事を考えてないで、さっさと後片付けを終わらせてしまわないとね)

 フィルランカは、柄杓で水瓶の水を手桶に入れて、その桶をカウンターキッチンの上に置気、汚れた食器を水盤の中の洗い用の桶に入れると、そこに水を注ぎタワシで食器を洗い始めた。

(カインクムさんと二人の生活)

「ふふ」

 フィルランカは、寒い日の食器洗いでも楽しそうにした。

 食器を一つ一つ丁寧に洗うと桶の水を流し、少し桶に水を入れると軽く濯いでから手桶の水を入れると、その水で食器を濯ぎ軽く振って水を飛ばすと水切り用のカゴに置いて行った。

(カインクムさんの食器と私の食器)

「うふ」

 食器を見てニヤけていると思わず声が出ていたが、フィルランカは自分が声を発していた事に気付かず続けた。

 食器を洗い終わると、フキンを取って食器を拭き始めた。

 洗った食器を手に取り付近で綺麗に水気を取っていくと、カインクムの食器は自分の食器よりも丁寧に拭いていいるが、フィルランカは気付く事は無く拭いていた。

 もし、リビングに誰かが居てフィルランカを見ていた場合、奇異な目で見た事だろうが、誰も居ない事をいい事にカインクムの食器を拭くことを嬉しそうにした。

「幸せ」

 フィルランカは気がすむまで、カインクムの食器を拭き確認して納得すると棚に食器を戻すと、その食器を見てニコリとした。

「ウフ、私の食器がカインクムさんの食器に並んで置いてある」

 誰も居ないリビングだから言える事だった。

(それじゃあ、片付けをしたら、店を開ける準備をしましょうか)

 カウンターキッチンに置いてある桶の水を入れ替えると、使っていたフキンを洗い出した。

 軽く揉んでから絞ると、フキンの縁を持って広げるように引っ張ってシワを伸ばしてから、両手に持って上に掲げるようにすると元のフキンが掛かった位置に戻した。

 それを見てフィルランカは納得できたような表情をすると、カウンターキッチンの上、その先のテーブルの上、水盤、そして、食器棚と確認するように見ると、また、納得するような表情をした。

 そして、手を拭くための手ぬぐいで手を拭いた。

「いた!」

 フィルランカは、そう言うと指先を見た。

 痛かったのは指先だったので、痛い理由を確認しようと見た。

「あー、ささくれができてしまったわ」

 右手の薬指、爪の脇に皮膚が細くはげ上がっているのを見ると、面白く無いという表情をした。

「あー、気持ちよく片付けができたのに、最後にこんな事になるなんて、ついてないわ!」

 一言ボヤくと、痛かった指を口に含むと壁に置いてある棚の前に行くと引き出しを開け、その中から爪切りを取り出した。

「ささくれは、指で引っ張って取ると痛くなるのよねぇ」

 そう言ってささくれに爪切りを当てて切り取る。

「本当は、爪切りなんて使っちゃいけないけど、痛いままにはして置けないわ」

 フィルランカはささくれの切れ具合を確認する。

「これで、休憩の時のお茶の準備も、昼食の準備をするにしても、邪魔にならないわ」

 フィルランカはささくれを切り取った指先を見てクスクスと笑った。

(何だか、とても幸せ)

 些細な事でも、カインクムと一緒に生活する事がフィルランカにはとても幸せに思え、そして、寒くなってきて出来てしまったささくれでも、その生活感だけでも充実しているように思えていたのだ。

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