痛いのは指先だけではない

とは

痛いのは指先だけではない

 打木うちき希美きみには、修復せねばならないものがあった。

 そう、それはささくれと恋人の母親との関係である。


「いったぁい!」


 いつの間にか出来ていた、人差し指のささくれ。

 これが服に引っ掛かり、思わず声を上げてしまう。


「うぅ。こんなに小さいものなのに、痛いんだよねぇ」


 希美の声が聞こえたのだろう。

 恋人の直人なおひとが、心配そうに隣へとやってきた。


 指先に触れながら、希美はある迷信を思い出す。


「ささくれは親不孝だからって、よく聞くけど……」

「親不孝か。それならば、俺に出来るべきなのかもしれないね」


 少し寂し気に、直人は希美の指を見つめながら話してくる。


 希美自身の親との関係は良好だ。

 だが、直人の母とは、あまりいい関係であるとは言えない。


「希美ちゃん。俺は当初、『君とは付き合えない』って言っていたでしょ。あれさ、母さんが俺と仲良くする女性に、とてもひどいことを言ってしまうからだったんだ。自分は、もう人を好きになってはいけない。そう思っていたけど」


 少し顔を赤らめながら、直人は希美へとほほ笑みかけてくる。


「君はそれでも、俺のそばにいてくれた。諦めていたことでも、君は『じゃあ、一緒にやろう!』と隣で笑って言ってくれる。知らなかったことへと飛び込む勇気を、君は俺に与えてくれたんだよ」

「そんな。私はただ、がむしゃらに行動していたらこうなっていただけ。直人さんとのことも、いろんな人からアドバイスをもらったの。その人たちから、背中を押されて」


 いや、押されてというレベルではない。

 いま思えば、『突き飛ばされて』位の勢いであったと思う。

 だが、大きな事に取り組むということは、それだけ勇気やきっかけが必要とするものなのだ。


「そうだよね。きっかけがあればきっと」

「ん? 希美ちゃん、どうしたの」


 不思議そうに自分を見てくる直人へと、希美は笑顔を返しながら問いかける。


「直人さん、私ちょっと挑戦してみたいことがあるの。付き合ってくれないかなぁ?」

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