ささくれ

@pusuga

ささくれ

 うおぉぉおりゃー!


 みなさん、おつ。

 俺は――仮にA太としとこう。

 40歳だ。


 今、指に出来たささくれの痛みに耐えかねて、後ろカゴ付の三輪ママチャリにて、土手沿いの道を病院に向かっている所だ。


 たかがささくれだろ? 病院だって迷惑じゃないか? と、9割強の人間は俺を大袈裟だと非難するかも――いや、するだろう。関わっちゃいけない人間認定をされるかも知れない。


 そんな事は知ったこっちゃない。

 

 そもそもささくれとは、爪の付け根の皮膚が乾燥して、めくれてしまうと言う、家庭の医学書にも掲載されている、れっきとした疾病だ。

 じゃあ聞くが、そこから悪質な細菌が体内に侵入し、破傷風や指の細胞を壊し、皮膚が黒ずみ、切断する事になったら非難した奴らは保障してくれるのか?

 出来ないだろうな。

 だったら、ごちゃごちゃと非難するのは止めてくれないか? 自分の身は自分で守らなくてはいけない。

 調べるとネットには数々の民間療法が掲載されている。ささくれを根元からハサミで切り落とし、ハンドクリームを塗り、医療用のテープでとめればいい――だが、あいにく俺の部屋には上記の物は常備していない。

 考えても見てくれ。

 まず、100円均一でハサミと医療用テープ、つまり絆創膏を購入。その後、薬屋で消毒液、ハンドクリームを購入だぞ?

 まず、家から100円均一まで500メートル。そこから更に薬局まで19190センチメートルの計691.9メートルだ。すごいだろ? 俺は下ネタが大の苦手だが、これは見事な語呂合わせだろ?

 話は逸れたが、それに対して皮膚科の病院は家から300メートル。加えて、二十年来お世話になってる、顔馴染みのドクター、ナースがいる俺の皮膚を知り尽くした病院だからな。


 長々と説明したが、俺の病院一択を察してくれたら幸いだ。


 俺は、次の記憶が病院になると言う無我夢中、一心不乱で三輪ママチャリを漕いだ。くどいようだが、子供の三輪車タイプの代物だ。


 □■□■□■□■


 顔馴染みの年配ナースは、ベッドに横たわる俺を見て吐き捨てる。


 「A太さん。いい歳して何してんの?とりあえず近くの総合病院に入院ですよ。うちでは手に終えません」


 「え?」


 ほれ見ろ。

 やはり予感は的中した。

 俺のささくれは重大な疾病だったのだ。


 「ノンストップで病院の壁に激突するなんて、何かまたいやらしい事考えてたんじゃないの? アバラ2、3本はイッてるわよ」


 「いや、ささくれが……」


 「ささくれ? そんなのツバでも付けておきなさい」


 「……はい。わかりました」


 この際だから、どんな非難も受け入れよう。


 

 


 

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