ささくれとったら、〇〇。恋愛は始まらない!

香 祐馬

第1話

「あっ、やっちまった。」


電車の窓から、いつもと変わらない風景を見ていた俺。

ぼーっとしていたところに、チリッとした痛みが走り、意識がはっきりと戻る。


無意識に右指のささくれをいじって、

とってしまったようだ。

とった痕を見ると、結構深い。

じんわりと血が滲み出ていた。


地味に痛い。

真ん中の指...これ、箸使ったり文字書いたりするとジンジンするやつだ。


ティッシュもハンカチもない。

仕方なく中指を唇に添えて、チュウッと血を啜った。


そんな姿を見ていた女性が居た。



女性は、一連の動作を見ていた。

電車に乗ってきた時から男性が気になっていた。

すごくカッコいい訳ではないのだが、存在感があった。

何より、タレ目がちな目や薄い唇が色っぽい。

ぶっちゃけタイプである。


そんな男性が、自分が座ってる場所近くに立っているのだ。

チラチラと見るのは、自明の理だ。


遠くを見つめている姿が素敵。

私を見てくれないかな。


観察を続けていると、男性が眉を顰めた。

指から血が出ているので、ささくれを抉ってしまったのだろうか。


そして、時が止まる。


男性が、長いセクシーな指を口に持っていき...、


チュウしたぁぁぁ!!

投げキッスしたぁぁぁ!!(※気のせいである。)

私にキスが飛んできたぁぁぁ!!(※勘違い甚だしい)


ふらふらと勝手に身体が引き寄せられちゃう。


気づけば、男性の目の前に。

口に添えられた右掌をしっかりと握ってしまっていた。




「は??」


いきなり現れた女性に困惑する。

年は、同じくらいであろう。身なりは、至って普通な女性...。


想像もしないような出来事にあうと、振り払ったり逃げたりは出来ないらしい。ただ呆けるだけだ。


ハッと、目を見開く女性。

正気に戻ったか..と思ったが、違った。


「声もいい!好きぃぃ!」と、血を吸ったばかりの唇に、喰らい付かれた。


俺は、ささくれを剥いたら、痴女を釣り上げたらしい。

このまま、警察に突き出せばいいのか?

誰か教えてくれ...。











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