心にささくれ

星見守灯也

心にささくれ

 ささくれができた。

 右手の親指の爪の端だ。

 ささくれは無理に取らないほうがいい。

 でも気になって、ちょっと引っ張ってみた。

 ピリッと痛みが走る。

 これ以上引っ張ると、ペリペリどこまでも皮がめくれてしまいそうで。

 乾いた皮膚の下に、なまなましい赤い肉が見えているのが怖い。



 そういや入学式前のあの時もささくれができたんだっけ。

 式の最中ずっと気になってしまって、クラスに入ってからも気になって。

 「話を聞きなさい」と入学早々、先生に怒られたんだった。

 思い出したらクサクサしてきた。

 先生だって、あんなに怒んなくてもよかったじゃない。

 同級生にはクスクス笑われるし、それからの学校生活は散々だった。

 何をやってもバカにされた。

 球技の時は迷惑そうにされたし、修学旅行では希望を聞いてもらえなかった。

 あと、応援団で前に出るたび笑われたのと、絵が張り出されたら変だと言われたのと……。

 ムカムカムカムカ。

 


 ささくれだった心でささくれをめくってみる。

 痛っ。

 右手の人差し指で掻くようにしていじるとちょっとずつ剥がれてきた。

 白い皮はすぐに剥がれそうなのに。

 あー気になる。

 ちょっとつまんでぴっと……やっぱり痛いわ。

 赤い血がじんわりにじんでいる。

 だめだこれ。



 そういえばなんで「心がささくれだつ」って言うんだろう。

 とげとげしい、すさんだ心のこと。

 といってもナイフで刺すほど痛いわけじゃない。

 ちょっと気になって忘れられないこと。

 だからってなかったことにしようとすると、少し痛みがあること。

 無理矢理引っ張ると血が出てしまうこと。



 そっか。

 だから無理に取らないほうがいいのか。

 気にしないほうがいいのか。

 無理にいじれば痛いから。



 どこかにあったはずと部屋を探す。

 細いハサミといい香りのするハンドクリーム。

 ささくれのめくれたところをパチンと切り取る。

 乾燥した皮がポロッと落ちた。

 それからよーくハンドクリームを手に塗った。

 これでよし。



 心はちょっと柔らかくなっていた。

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心にささくれ 星見守灯也 @hoshimi_motoya

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