ささくれ

「そんな話が日本に伝わった。当時は太陰暦、つまり太陽でなく月の動きで暦を作っていたから、当時の暦でいえば七月七日は今の真夏、八月の半ばだったんだよ」


「へ〜。それがどうかしたの?」


「気候だよ。真夏であれば晴れの日も多い。雨が降るといい加減な橋を掛けなければならず、誰も喜ばないからな。いや、中抜き会社は喜ぶか。いいか、太陽暦の七月七日はたいてい梅雨だ」


「梅雨!」


「大体晴れの八月から、大概雨の七月に勝手に日付を変えられたんだ。いつも危険な橋を渡り、命がけのデートをしなければならない」


「ひでえな」


「勝手な理由で日程まで変更させられる、しかも梅雨に! これが底辺の生き方だよ」


「なんてこった!」


「そんな底辺の仕事をしている二人に、何を願うんだ? ゲーム機? 無理だろ」


「……そうだね」


「だろう」


「分かった。じゃあこう書くよ。『あなたたちみたいな生活をしないように、勉強を頑張ります。将来は経営者側になれるよう頑張ります」


「それもどうかと思うが、まあ頑張れ」


 純粋な子どもの心がささくれだった。こうして現実を知った子どもは、大人への階段を上がるのだった。


おしまい

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笹クレッ! みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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