ささくれ
月見 夕
白い部屋と、俺と、ささくれ
あ、実験開始? 今からか。1時間って長いなあ。親指のささくれ痛いなあ。皮引っ張ったら血が出てきちゃったよ。あー痛い。だからささくれって嫌いなんだよな。
あの研究員、俺の頭に電極ぶっ刺して出てったけど、これ本当に取れるんだろうな? 部分麻酔が利いてるから頭は痛くない。むしろ指のささくれの方が痛い。地味に痛い。
ていうか1時間何しろっていうんだろうな、こんな真っ白な部屋に机と椅子だけ与えられてさ。スマホもねえ漫画もねえ、とにかく白い壁を見つめてぼーっとするしかねえ。高い
俺の脳に刺さった電極から思考を読み取って文章化するツールの実証実験だか何だかは知らないが、俺さっきから碌なこと考えてねえからな、変なこと考えないようにしねえとな。あー親指痛い。
あ、新しいささくれ見つけちまった。暇すぎて指しか見るところねえんだよ。今度は右手の人差し指かよ。これ無理やり千切るから痛いんだよな。放っとけば痛くならねえんだよ。分かってんだよ、俺。でも気づいちまったらもうしょうがないよな。
誰か爪切り持ってねえかな。安全にささくれとお別れするためには切れ味のいい爪切りが必要だ。でもそんなもんねえよ。分かってんだよ。この部屋何もねえからな。
気になるなー。あーもう取るぞー取る取る、左手の指先に集中して、細心の注意を払って……取る。
やっぱり皮がピーってなった! 血が滲んじゃったじゃん。痛えよ……誰か絆創膏持ってねえかな。持ってねえか。さっき電極刺してった助手の子持ってないかな。あーもう早くバイト終われ……終われ……
――――――
――――
「先生、書き起こし出力したものがこちらです」
「うーん……やっぱりその、雑念というか咄嗟に考えたものも全部ごちゃごちゃになってるねえ」
「脳波の強弱を問わず読み取りができてはいますね」
「とりあえず、次の被検体は指がささくれてない人を探して」
「はい」
ささくれ 月見 夕 @tsukimi0518
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます