真夜中アイスは罪深いお味ですが
波津井りく
カロリーを前にするとハイになるタイプ
「はー! ストレスストレスー! 食わなきゃやってらんねーぜヒャッホウ!」
我ながら真夜中二時とは思えないテンション。バーンと冷凍庫を開け放ち、底の底までみっしり蓄えられた魅惑のカロリーに手を伸ばす。
今だけはぶっ壊れた人間関係だの、微塵も改善される見込みのない職場の待遇だのから解き放たれたい。
ふははは我は自由ぞ、夜中にアイス食べたって気にせんぞ。さっき独り身になったのでな! なんで最近返信くれないの? とか年度末に書き連ねて来るメンヘラ男に未練などない!
……まあ一時の勢いで別れを選んだ自覚はある。私は彼氏より自分の安寧に比重を置く人間だったのね、との気付きを得た。そう思えば感謝出来ないこともないかな。割とごめんね。
「歯応え重視で行くべきか、滑らか舌触りで行くべきか……それが問題だ」
ストレス解消を第一にガリゴリと嚙み砕くのは実にいい。しかしそれではアイスを八つ当たりの道具にしてしまう。アイスを心から愛でる者として、それは許されないのでは……?
「いいえ。アイスは全てを包み込み、溶かし込んで受け入れる至上の甘味。それっぽっちでアイスの価値は揺らがないわ。確信する!」
よろしい、その言い訳を採用します。と心の中の裁判長が頷いた。確定無罪。
ならばよしと全世界で愛される爽やかブルーのパッケージを掴む。でも私の本能はアイスにだけは浮気性かつ優柔不断で、反対側に積まれたお高いカップアイスを無視出来ない。
ああ高級感。シックな色合いとデザイン性の高いカップは、深夜二時のやけ食いを何か意義のある人生体験のように錯覚させる。シンプルにめっちゃ食いてえ。
「……今日は特別だから。仕方ない日だから。世の中には、カロリーでしか晴らせない鬱憤や悲しみがあるものだから……っ」
両方食べればいいじゃない、の万事解決唯一論に従い、私はいそいそソファーに身を預けた。糖分、ささくれた心に沁みて行きますわぁ。でも涙の味がちょっと邪魔。
真夜中アイスは罪深いお味ですが 波津井りく @11ecrit
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