ささくれぺりぺり

脳幹 まこと

思ったよりしつこいささくれ


 左手の人差し指にささくれが出来ていた。

 母さんは「無理に取るのは止めた方がいい」とは言ってたけど、見た目がなんかダサくなるし取っちゃおうと思った。

 本当は爪切りでカットしたかったけど近くにないので、右手でつまんで「えいや」と引っ張る。


「痛っ」


 最悪だ。

 まわりの皮膚まで巻き込んで、より長いささくれになってしまった。

 心を落ち着かせる。大丈夫。さっきのはささくれが短かったせいだ。手が滑ってしまっただけ、まだ取り返せる。

 ささくれの根元に右手を添え、意識を集中して「おりゃ」と摘み取る。


「痛っっっ」


 え……? 嘘でしょ……?

 指の第二関節までめくれちゃった……めくれた先にはスーパーで見かける薄ピンク色の組織が顔をのぞかせている。

 こんなことある? 魚肉ソーセージのフィルムじゃないんだから。

 どうしよう。ここからフォローってできるのかな。ハサミでも持ってきてさっさと根本から断ち切ってしまえば何とか。

 え、でも今、お外だよ? 最寄りのコンビニを探すのも億劫おっくうだし、やっぱり自分の手で何とかしてみよう。

 大丈夫だって。日焼けの皮をぺりぺり剥がすのとおんなじもの。何をそんなに慌てているの。頑張るのよ、私。

 深呼吸。意識を全集中して「せーの……」と一声。

 思い切りささくれをじ切る――


っっったぁぁぁぁぁ!!!!」


 私の全力のスイングは、猛烈な勢いで皮膚をめくりあげていった。

 衝撃は人差し指の根本に達し、そこから5つに枝分かれし、親指、中指、薬指、小指、手首へとそれぞれ向かっていった。

 手の甲から、手のひらへ。

 手首から、肘へ、肩へ。

 ドミノ倒しのような壮観さで私はそれをただ見つめることしか出来なかった。

 既に痛みどころではない。私はとんでもないことをしてしまったと深く後悔した。

 右肩から胸に、首に、腹に、右肩に、右肘に、右手に。

 エネルギーは止まらない。こんな時に潜在能力の100%を引き出さなくてもいいのよ?

 このまま皮膚が全部めくれて死ぬのかな。私は漫然とそう思った。

「親より先にいくのは不孝者」だって何かに書いてあったな。


 ごめんね、母さん。


 しかし、その心配は必要ないことにすぐに気付くことになった。


 私の両足に達したエネルギーは勢いをそのまま、靴を通して大地をめくり始めたのだ。

 今となっては希少なジャングルジムも鉄骨がめくれて崩れていった。

 街路樹も歩行者も照明灯もトイレも全部めくれていった。


 そして何より大地がめくれた先から真っ黒い物体が出現した。

 それがすべてを吸い込み、私はみんなと一緒にいった。


 ささくれが出来ると親不孝になるっていうのは、どうやら嘘らしい。

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