本日のミンナはささくれ退治
葛鷲つるぎ
第1話
ささくれが痛い。
ミンナは沈痛な面持ちで自分の手を見下ろした。
爪の生え際からめくれた皮。つい指でつまんでひっちぎってしまいたくなる。
「最近、乾燥した環境にいたもんなぁ……」
ミンナは十七才の少女だったが、ささくれは年齢に関係なく襲いかかる。気になるし、痛い。
実はこの前にも魔法で治癒したばかりだった。魔法使いではないが、最低限の魔法は扱える。
それにつけても何度も治すのはおっくうである。ミンナは、今度はささくれにならない魔法をかけた。
それでしばらくは保つはずだった。
「また、ささくれぇ?」
ミンナはげんなりした。
原因は明白である。ストレスだ。肌荒れに繋がるものすべて。魔法の治癒力を追い越したのだ。魔法一つですべてが解決するなら死亡率はもっと下がって良い。
魔力を巡らせて色々保たせる方法はあるが、ミンナは今、魔王を倒し王国から魔王領を横取りした関係で姿を隠している。
魔王討伐の儀。制限時間三分の儀式。見事成功させたミンナは勇者の立場であるが、魔法もそれなりに扱えることを自分で証明していた。
だから常時稼働させるような、ちょっと高度な魔法は控えたいところだった。
「あーあ」
こうなったら、素直にささくれを治すしかなかった。
つまり、生活習慣の改善である。
引っ越してから未だ片付け終えていない段ボール箱の数々。その上で眠っていたが、これからは布団を敷いて寝る。食事は毎日三食。特にタンパク質を摂る。
そして、魔法を使う。乾燥はミンナに手出し出来る領域ではないので最後は簡単な魔法で治めるのだった。
「治ったあ〜〜!」
ある晴れやかな昼ざかり。
だいぶ時間をかけて部屋の荷物を片付け終えたミンナは、ふと自分の指を見ると、爪の付け根からささくれが消え、つやつやと太陽の光を反射していることに気がつき、喝采を上げた。
魔王討伐に全力を上げていた人生である。
こういった地道な成功は得意分野だと、ミンナは自分を褒め称え、えっへんと肩をそびやかした。
ささくれを根治するのに、それくらい骨を折ったミンナなのだった。
本日のミンナはささくれ退治 葛鷲つるぎ @aves_kudzu
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