ささくれなんて変なお題を考えた奴とそれを選んだ運営に一泡吹かせるため、引き出しの奥のさらに奥から無理やり引っ張り出して、渾身の一作を書き上げてやったぜ!
丸子稔
第1話 ささくれを痛みなく取り除く方法
俺の名前は
趣味は指にできたささくれを、痛みを伴わずして剥くこと。
幼少の頃から、この作業を繰り返していた俺は、今ではいくら指にささくれができようが、なんの恐怖も感じなくなっていた。
「おい、佐々呉。指にささくれができたんだけど、どうやったら痛みなく抜けるか教えてくれないか?」
クラスメイトの
「いいけど、タダでは教えられないな。なんせ、俺が長年かけて編み出した究極の方法だからな」
「おいおい、金を取る気かよ」
「別に金じゃなくてもいい。例えば、お前しか知らない秘密を教えてくれるとかでもいいぞ」
「秘密ねえ。これは秘密じゃなくて
根疑魔が分かり切ったことを訊いてきた。
「そんなの簡単だよ。ネギとネギの間に鶏肉を挟んでるからだろ?」
「はははっ! やはり、そうきたか。そう思ってる奴って結構いるけど、それ全然違うから」
「はあ? じゃあ、なんでそう言うんだ」
「ねぎまの由来は、江戸時代に食べられていたねぎま鍋からきてるんだよ。ちなみに、この『ま』はまぐろのことなんだ。この鍋料理はやがて串料理へと変化したんだけど、その頃まぐろの価格が高騰した影響で、まぐろに代わって鶏肉が使われるようになったんだ。それが現在に至っているってわけさ」
「ほう。さすが名前が根疑魔だけあって、ねぎまのことをよく知ってるな」
(いや、こんなの知ってる奴なんて、ほとんどいないから。ていうか、こいつ俺が知らないのを分かってて、わざとこんな質問してきやがったな)
「まあな。逆に言うと、この名前で知らなかったら、ヤバいからな。お前も名前が佐々呉だから、ささくれができた時の対処法を勉強する気になったんだろ?」
「ああ。一般的に、ささくれができた場合は、ニッパー等でめくれた皮膚の根元をカットして、その後オイルやクリームを塗るのがいいとされているが、俺はそんなまどろっこしいことはしない」
「ほう。俺はいつもそうやってたけど、やはり何かいい方法があるんだな。早速実践するから、早く教えてくれよ」
「じゃあ、まず、ささくれになっている部分を指でつまんでみろ」
「こうか?」
根疑魔はなんの疑いもなく、俺の言う通りにささくれを自らの指でつまんだ。
「次に、そのつまんだ方の指を、勢いよく上に引き上げろ。その時に気合を込めて『除去!』って叫ぶことを忘れずにな。じゃあ、やってみろ」
根疑魔は、訝し気な顔をしながらも、俺の言った通り「除去!」と叫びながら、ささくれを引っこ抜いた。
「いてっ! おいっ! これ、めちゃくちゃ痛いじゃないか!」
根疑魔は顔を真っ赤にしながら、訴えてきた。
「お前は気合が足りないんだよ。まだまだ修行が必要だな。はははっ!」
俺は痛がる根疑魔を尻目に、さっきのねぎまの蘊蓄の仕返しができたことで、大いに満足していた。
了
ささくれなんて変なお題を考えた奴とそれを選んだ運営に一泡吹かせるため、引き出しの奥のさらに奥から無理やり引っ張り出して、渾身の一作を書き上げてやったぜ! 丸子稔 @kyuukomu
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