次への始まり

「おやおや、ずいぶんと早い再会だったね」


「マーちゃん···」


 私が『ヘブン』に逃げ込む事に成功し、一息つくと、大和と長門がやって来た。


 私がここを去って一年でずいぶんと背が伸びた。


 より男らしく、女らしくなっていた。


「日本政府が大和、長門、紀伊が神である事に気がついた。私も下手を打ったのはあるけど、このままノコノコと現世に戻ったら捕まるだろうね。紀伊が滅茶苦茶強いから捕まえるにしても激しい戦闘になるだろうけど」


 するとマーちゃんが


「なんだい、また日本政府は馬鹿な事をしたのか···学ばないねぇ」


 と言う。


 マーちゃん曰く既得権益を侵しかねないとして公安にマークされたことがあったらしく、火事で研究資料が一度燃えているが、その際に犯人が捕まらなかった事があったらしい。


 マーちゃんは公安もしくは政府特務室のどちらかが怪しいと感じていたらしいが、今回は私に実力行使をしたことに驚いたらしい。


「日本もずいぶんと過激になったものだね。さて、逃げてきたということは全てを捨ててきたんだろ? 金も地位も名誉も組織も···」


「元々私が組織や名誉を欲した理由が大和と長門が生活しやすいようにっていう親心からだからね···大和、長門ごめんね。無一文になっちゃった」


「まぁ仕方ないよ。というか多分僕の固有能力があったから害がなかったんだと思うよ。縁に関する能力を失った今、押さえつけていたものが暴走してもおかしくないでしょ」


「それに私達イブキが居ない間に滅茶苦茶力を付けたんだよ! まぁ振るう場所はなくなってしまったかもしれないけど、また一からやり直しが効くって!」


 と大和と長門は言う。


 二人は私がいない間に強く逞しく成長していた。


 我が子ながら二人は神でありながらここまで人間性を保てていると思う。


「さて、じゃぁ今後の事を決めようじゃないか」


 マーちゃんがそう言うと話し合いを行う。


 まず前提として当面は日本に戻ることはできないということ。


 長期間このダンジョン『ヘブン』で生活しなければならない。


 食事はある程度はこのダンジョンでも調達することはできるが、非効率この上ない。


 長門がダンジョンを新たに創るのが大切になる。


「武器や防具はダンジョン産のドロップ品を使う事になるし、レベルも上げないといけないよね。魔法もいっぱい覚えて···」


「なぁイブキ、僕達の目標はなんだい?」


 私が色々と言っていると大和がそう聞いてきた。


 今までの目標はしっかりとした社会基盤や社会的な地位を得ることにあった。


 それが崩れた以上新しい目標と目的が必要になる。


 凡人の私にはそれが思いつかない。


「ならさ、新しい人類の生存圏を作ろうよ! 私達どうせ帰れないんだから!」


「僕と大和、それに紀伊の力があれば新しい世界を創れる! 現世に囚われることはしなくてもいいじゃん!」


 そう力強く言われた。


「···わかった。新しい世界を作ろう!」


 私は新しい目的として世界の創造を掲げるのであった。











 私達が居なくなった日本···いや、世界の話をしよう。


 まず私は民間人(政府の諜報員達)を殺害した罪に問われて全国に指名手配された。


 チャンネルは勿論凍結。


 ガイアクランは山姫が新代表となったが、スポンサー契約は明聖社と岐阜県探索者支部以外は解約となった。


 北稲荷は現代のゲットーという形になってしまい、混血の収容所の様な街になってしまった。


 ただ東横に託されていた薩摩と四万十の二人が成長し、クランを引っ張っていく事になるのだがそれは更に未来の話···


 グラスノー大統領は帰国後に占いを何度もした結果神に見捨てられたという新しい占い結果しか出なくなり、日本政府が最悪な選択肢を選んでしまったと頭を抱えた。


 そして十年、二十年と時が経過するにつれて神が現世を見捨てた影響か、ダンジョンが成長を始め、複数の地域でスタンピードが発生。


 イブキの加護を受けていた面々は成長し続けるダンジョンに適応したが、そうでない人間達は各地で起こるスタンピードに疲弊し、多くの国が破綻したり、滅亡したりしてしまった。


 ことここにいたり、世界各国は地球上での生存は難しいと判断し、地球を捨てて火星に移住する計画や地上を捨てて地下にて生活するプランが本気で考えられるようになる。


 ダンジョンが地上に現れて百年···神の試練を乗り越えられなかった人類は神の試練が過ぎ去るのを待つという選択肢を取り、地上の文明は崩壊するのであった。


 そこから更に百年後···







「うわ、久しぶりに帰ってきたら文明滅亡してるじゃん」


「モンスターがどこもかしこにもいるし···そうかぁ人類は耐えられなかったか」


「辻さん、どうする? こんな地球だけどまだ文明作れるの?」


「なに、神話の時代に戻っただけだ。ここから英雄の時代が始まるんだよ」


 そこには神の軍勢が地上に舞い降りるのであった。


「イブキにももう一度見せたかったな。地上の光景を」


「イブキが亡くなって八十年も経つのか···時が過ぎるのは早いね」


「イブキ的には色々と思うところがあっただろうけどね···」


 こうして神話が再び始まるのであった。



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底辺ダンジョン配信者がトラップ踏んだらTS天使になりました!? 星野林 @yukkurireisa

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