いつ捨てるの?
かどの かゆた
いつ捨てるの?
押入れの中には幾つか箱があって、段ボールはずいぶん古びていた。
一つ目は、小学校の卒業アルバムや図工で描いた絵の入った箱。絵はかなり下手で、カブトムシかクワガタか分からない虫が、丸太の上でどっしりと構えている。
二つ目は、高校の教科書やノートの入った箱。「なんとなく捨てられない」と本人は言っていたが、理由は何となく分かっていた。ぱらぱらと教科書を見るだけでも、書き込みの多さにちょっと驚く。
三つ目は、家を出る時に置いていったもの。CDとか、古いゲーム機とか、漫画とか。これについては「もう少し広い部屋を借りられたら、取りに行きたい」って言ってたっけ。
「あれ、なにしてるの?」
母さんが部屋に入ってくる。
「いや、懐かしいな、って思って」
それは、箱のことだけではなかった。部屋も、ずっとそのままなのだ。あいつが家を出て働き始めた時から、ずっと同じ。たまの休みで帰ってきた時に泊められるよう、ベッドもクローゼットもそのままだ。
「懐かしい、ね……えっと」
母さんは何か意味のあることを言おうとして、何も言葉が出てこないようだった。
「そういえば、帰ってから線香あげた?」
「あげてない」
俺は手元にあった卒業文集を開いた。将来の夢はサッカー選手。めちゃくちゃ適当な作文で、多分、本当の夢を書くのは恥ずかしかったのだろう。
「じゃ、挨拶しなさい。ひいじいちゃんとひいばあちゃんと……浩史に」
浩史。
卒業文集にも、下手な絵にも、教科書の裏表紙にも、その名前がある。
それは、大切な弟の名前だった。俺よりも成績が良くて、中学の時なんかは俺よりも先に彼女つくってて、いつも俺より先に行っていると思っていたら、とうとう手の届かない場所に行ってしまった弟だ。
線香をあげて、仕事のこととか、近況を真面目に報告する。きっと目の前が仏壇でなく本人だったら、もっと適当な話をするのだろう。具体的な話題は、何も浮かばないけれど。
もう3年だ。
事故からもう、3年経っている。
あの部屋は、あの箱は、いつまで残すべきなのだろう。そんなことを考えるのは、薄情だろうか。
母さんはお昼に、焼きそばを作っていた。その後ろ姿に聞きたいことがあったが、言い出せるはずもない。ただソースの香りを嗅ぎながらソファに深く座った。
いつ捨てるの? かどの かゆた @kudamonogayu01
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