本編

 一番街の入口を一歩二歩と進み、私たちは違和感を感じた。さっきまで賑わいを見せていた場所とは到底思えない静けさで歩いてた人々は俯いていた。


「急に静かになってどうしたんだろう? フラッシュモブ? 」


 私がそう言った瞬間、俯いた人々たちは一番街の出口まで歩き始め、出口を塞いだ。


「あの、何をしてるんですか……? 」


 真波が出口の方に立っている男性に話しかけたが反応せず、先程と同様に俯いたままだった。

 

「なんか気持ち悪いからここから離れよ」


 私がそう言うとみんなうなずいた。


 謝りながら通り抜けようとしたが重い像のようにビクともせず、誰かが手を伸ばし私たちを突き飛ばした。突き飛ばした人たちを見てみると生気を失ったような表情だった。


 「別の出口から出よう!! 」


 真波が言い、別の出口から出ようとしたが結果は先程と同様だった。


 不気味な雰囲気の一番街に閉じ込められ、私たちの中に不安と恐怖が心を少しずつ蝕み始め、表情が暗くなっていた。


「多分、なんかのドッキリだよ! 少しすればさっきの人達もどっかに行ってる――だから、カラオケでパッとしよ! 」


 みんなの不安と恐怖を紛らわせるために言ったが実際は自分の気持ちを落ち着かせるための言葉だった。それでも、他の二人は少し気持ちが和らいだのか少し表情が明るくなった。


 カラオケ店の中に入り、セルフ受付を済ませ、指定された部屋に入った。部屋に入るまで店員やお客さんとすれ違わないことにいつもは何も感じないのに今日は不気味に感じてしまった。


 それから私たちは気持ちを紛らわせるために沢山歌った。歌い満足したこと所で退出することにした。

 

「もう、外大丈夫だよね? いつもの一番街だよね? 」


 精算に向かう途中、真波が言った。

 カラオケで忘れかけていた恐怖と不安がまた少しずつ心を蝕み始めた。


「――大丈夫だよ。きっと……」

「そそ、大丈夫だって……」


 精算を終え、恐怖と不安を押し殺して、私たちは自動ドアを通った。外はいつもの一番街に戻っており、人々の往来がいつも通り盛んだった。


「いやー!! 」


 真波が突然悲鳴を上げた。真波は体が震え、餌を待つ魚のように口をパクパクとさせていた。


「どうしたの!? 何があったの!? 」


 私が聞くと咲も悲鳴を上げた。


「――透き……通った、私の体を人が……」


 咲が自分の身に起きた恐怖を噛み締めながら言った。真波も体を震わせながらもうなずいた。


 しかし私は理解できなかった。人が人の体を透き通ることなんか理解出来るわけがなかった。


 突然、自分の鼻が触れるくらい目の前に知らない人の背中が現れた。私は突然人が現れたことに驚き、尻もちを着いた。そんな私のお腹の上を往来する人達は私が居ないかのように踏んでいった。しかし踏まれても痛みを感じず、足首から下が自分の腹にのめり込むという奇妙な光景に鳥肌が立った。


 他の子たちが言ってた意味が理解出来た。自分の体を他の人が透き通り、透き通った人たちは私たちが見えていない。


「私たち……死んだの……? 」

「いつ!! 何があって私たちは死んだの!! なんでなんでなんで!! 」

「何もわかんないよ! この状況はなんなの!! 」


 二人は精神状態が崩れ始めた。私も平静を保つので精一杯だった。


 そんな中、広告モニターにノイズが入り、中心部に砂嵐が起こった。みんなこの状況が飲み込めず、それに気づいてなかった。

 

 数秒もすると砂嵐は治ったがさっきまでなかった私たちに似たマネキン? のようなものが三体ほど表示された。


「ねぇ、さっきまであんな変な広告あった? 」


 私以外に咲が気づいた。それから泣いていた真波も広告モニターの方を見た。


 それと同時に赤色のモヤみたいなものが私に似た服装をしたマネキンの手首の上を通った。それが通ったあと、さっきまでマネキンについていた左手に赤いモヤがかかった。


「ねぇ、その左手、何? 」


 モニターの方に釘付けになっていた私に向かって真波が言った。


 私の左手を見るとマネキンと同じように赤いモヤがかかっており、先程まで動かせる感覚があったのに感覚が無くなっていた。


「――え……? 」


 私は恐怖で言葉が出ず、ただただ涙が出るだけだった。


 モニターに映っていた赤いモヤか何かはに似たマネキンの右手首に移動していき、通り過ぎた。咲の方を見てみると私と同じように赤いモヤがかかっおり、左手で右手を叩いた。恐らく私と同じで感覚が無くなったのだろう。


「カ、かく、れ、レ、れんぼ……しよう」


 広告モニターから辛うじて聞き取れるノイズ混じりの声が聞こえた。通行人はそんな奇妙で不気味の声に私たち以外誰も気づいていないようだった。


「ヤッ、パリ、鬼ごっ、コ。ヤッパリ、リョウホウ、やろう」


 その瞬間空が夕暮れ色に染まり、先程まで歩いていた通行人は出口まで俯いたまま歩き始め、出口を塞いだ。


「何!? 何が始まるの!? 」

「もういや! 帰りたい! 帰りたいよ……」


 感情むき出しの言葉が周囲に響いた。誰も他の人を落ち着かせる余裕なんてなかった。


 「よーい、すたーと」


 先程までよりノイズが減り、明確に聞き取れた。モニターの方を見てみると「さぁ、ニゲテ、探して」の文字が映し出されていた。


 突然重い物が落ちた時のような大きな足音が聞こえた。音の方を見てみると青色で手と足に水かきみたいなものをつけている鬼のような化け物が私たちの入ってきた入口を塞いだ人壁の中から現れた。


 化け物は私たちを見るなり大きな足音をドス、ドスと立てながら向かってきた。私たちは本能的に逃げなければと思い走り出した。

 

 化け物は歩いているとはいえ、壁になっている人たちを一歩で超えれる足の長さのため、少しでも走るスピードを落としたら追いつかれると感じ、全速力で走った。目の前にある人壁がない方向に。

 

 何とか逃げ切り出口を超えた。しかし、出た場所は化け物が現れた場所からだった。


「――なんで出れないの……」


 私たちが絶望している中、化け物も出口を超え、最初の場所に戻ってきた。 そして、化け物は私の右耳に触れた。私の右耳にはまた赤いモヤがかかり、先程より音が聞こえずらくなった。聴力を失ってしまった。


 このまま化け物に頭や心臓を触れられた私たちは私として存在出来なくなるような気がした。


 「全力で走って!! 」


 私は喉が枯れるほどの声でほか二人を走らせた。しかし、また出口を超えてもまた同じ場所に戻ってきてしまった。それで心が折れたのか真波が膝を着いた。


「隠れよ! 付いて来て!! 」


 私は真波を引っ張りカラオケ店の奥部屋に逃げ込み、隠れた。化け物はカラオケ店の中までは追いかけてこなかった。


 みんな息を切らしながらも出られない絶望感と見たこともない化け物に追いかけられる恐怖から涙を流していた。


「きっと、出られるよ。どこか別の出口があるよ」


 励ましの言葉を言わないと自分まで完全に恐怖に呑まれそうになる。


「どこに出口なんかあるの!! そんな励ましなんて要らない!! 」


 真波は自暴自棄になったのかマイクを壁に投げ、デンモクを叩きつけた。


 自暴自棄になった真波を私と咲で落ち着かせ、私は自分を落ち着かせるために部屋の中をゆっくりと見回した。そんな中、テレビにさっき広告モニターに映ったものと同じものが映っていた。


 「ねぇ、これさっきも見なかった? 」


 私が聞くと咲がうなずいた。もう一人はモニターを見るほどの余裕もなかったのだろう。

 

 私もさっきあまり見ることが出来なかったが今、よく見てみると「さぁ、ニゲテ、探して」の文字と私たちに似た俯いたマネキンが交互に映っていた。


「このマネキンどこか私たちに似てない? 」

「なんか気持ち悪い……」


 真波がそう言った。

 確かに私たちに似たマネキンがこの状況下で映し出されていて気持ちがいいものではない。


「そんなことよりここから出る方法考えよ! 」


 それから私たちはここからでる方法を考えたがまともな案は出てこなかった。


「もう一度人壁が無い方へ走ってみない? 」


 私がそう言うと咲は不安そうだったが私の案に乗ってくれた。しかし、真波は嫌がってた。


「ここに一人でいるの? 」


 真波は首を横に振った。


「なら一緒に試してみよう」


 真波はゆっくりと立ち上がり私たちの手を握った。


「置いて行かないでね」


 私たちは真波の手を強く握りしめた。


 カラオケ店の出口に向かい、外を覗いてみると化け物は消えていた。その機を逃さず、私たちは店を出た瞬間、全力で走った。


 私たちが出口手前の所で甲高い雄叫びのようなものが後ろから聞こえ、さっきの化け物が現れたが私たちは出口を超えた。


 しかし、願いは届かず化け物の数メートル後ろに出た。化け物はそれに気づくや否や私たちの方へ近づいてきた。


 みんなその化け物を避けてカラオケ店に逃げ込もうとしたが咲がつまずいてしまった。


 化け物は咲に向かい手を伸ばした。化け物の手を避けようと後ろに避けたが人壁にぶつかり逃げ場が無くなった。しかし、その瞬間咲は消えた。


『――消えた……』


 すぐさま化け物はこちらを向いた。私は呆然としている真波の手を引き、またカラオケ店の奥部屋を目指して走った。


「なんで消えたの? 咲は助かったの? それとも死んじゃった……」


 そんなことを聞かれても私にも分からなかった。ただ、同じものが繰り返し流れるテレビの方を見ることしか出来なった。


「ねぇ、なんとか言ってよ! 月ちゃん! 」

「私にだって分からないよ! 」


 つい激しい口調になってしまい、真波を驚かせてしまった。


「ごめん、強く言いすぎた……」

「いいよ……。私こそ当たってしまってごめんね」


 そこから少し沈黙が流れた。


「ねぇ、さっきとなんか違くない? マネキンの数が減ってるような気がするの」


 真波が言った通り、一度目ここに入った時と少し違い咲に似たマネキンが減っていた。それに気づいた瞬間、モニターに映っていた「さぁ、ニゲテ、探して」という言葉と結びついたような気がした。


 さっき咲が消えた時しっかりと見たわけではないが咲の後ろには咲に似たマネキンがあったような気がした。もしかしたら、自分に似たマネキンに触れさえすれば出られるのではないだろうか?


 私は真波に今思った事を話した。


「――試そう。結局それ以外ここから出る案も思いつかないし、やってみないことに結果なんて分からないから」


 カラオケ店から出るとさっきと同じで化け物は甲高い雄叫びを上げながら現れ、走る私たちを追いかけてきた。


 恐らくマネキンがあるのは人壁の中だろう。人壁の数とマネキンの数は三つで同じ。そこに繋がりがあることを信じ、咲のマネキンがあった人壁とは別の所を走りながら探した。追いつかれたら何度も最初から同じ所を走った。

 

 「いたよ!! 真波のマネキン! 」

「こっちもあったよ!! 月ちゃんのマネキン !」


 互いのマネキンは自分たちが探していた場所とは反対にあり、私たちはそれを目掛けて走った。


 化け物は二手に別れた私たちに少し迷いを生じたかのように感じたがすぐさま私を追いかけ始めた。


「怖いけど私行くよ! 月ちゃんも絶対に帰ってきてよ! 」


 真波はそう言い、消えた。


 私はひたすら自分のマネキンの方に向かい走った。あと少しというところで右足の感覚が無くなり転んでしまった。


 後ろの方を見てみると化け物の手が私の右足に触れていた。化け物は右足に触れていた手を今度は左足に触れた。触れた瞬間今度は左足の感覚が無くなり、立てなかった。


 だけど、私は体に力を込めズズズと音を立てながらも地面を這った。這って行く中、化け物の手が私の体を透過していき色んな場所の感覚が無くなっていた。


 そんな恐怖の中、私に似たマネキンに手を伸ばし、触れた。


 触れた瞬間、体が段々と消えていった。ゆっくりと化け物の方を向くと、そこにいた化け物はいなくなっており、代わりに黄色ワンピースを着た頭部が赤いモヤが掛かった女の子? がいた。


「――思い出いいな……」


 女の子が悲しそうにそういう中、私の視界は無くなった。


 次に私が目を覚ました時は一番街の入口に立ち尽くしており、手の中にはシワのある写真の欠片が入っていた。


 咲や真波のことが気になり、横を向いてみると咲たちも手にシワのある写真の欠片を持っていた。


「――無事だったんだ……」


 そこから落ち着いたところでそれぞれが握っていた写真の欠片を合わせてみると中学生くらいの黄色のワンピースの女の子とその子と同じくらいの女の子が複数に写った写真だった……

  


 

 





 


 

 







 





 

 


 

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オモイデイイナ 日月ひた @Hita_30

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