仕舞う
眞柴りつ夏
白
そこには同じサイズの白い箱が、一寸の狂いも無く丁寧に並べられていた。
異様な光景ではあるが、不思議と怖さとか気持ち悪さは感じない。
さくらは小さく息を呑んで、隣に立つ人物を見上げた。
「これが、そうなんですか?」
「そうです」
スーツをきっちりと着こなした男性が、この職場の唯一のスタッフらしい。
「さくらさんはこの仕事の内容、聞いていますか?」
「『在庫管理』だと聞いています。面接の時にそう言われました」
「……社長、相変わらず適当だな」
苦笑して「僕は高橋といいます」と名乗った。さくらは慌てて頭を下げる。
「さくらさんにお願いしたい仕事は、この箱たちの管理です。在庫、とはまた少し違うのですが」
言いながら近くの箱を取り出してさくらの方へ差し出した。手のひらに乗るサイズ感。表面を指で撫でてみると、少しだけざらつきがあった。なんの材質だろう。
「さくらさんは口が堅いですか?」
「そう、ですね。友達と呼べるような人もいないし、恋人もいません。機密情報を話そうという気持ちになったことは、覚えている限り無いです」
「それは結構」
高橋は微笑んだ。
「この箱は、記憶を入れるものです」
「きおく?記録、ではなく?」
「はい、記憶です」
さくらの手から箱を取り、蓋を開ける。どうぞ、と差し出されたので中を覗いた。
——真っ暗な闇が広がっていた。
「こ、れ……箱、ですよね?なんだかすごく……深い感じがするんですけど」
中から微かに風が吹いてきている気がして、さくらはぶるりと身体を震わせた。
どういう作りなんだろう。
「嫌なことってありますよね、生きていると。それをお預かりするのが、我々の仕事です」
「……おあずかり」
「はい。所謂『キャパオーバー』という状態になった人からの依頼で、その人が体験した『嫌なこと』『忘れたいこと』をこの箱に封じ込める」
「……ふうじこめる」
「せっかくですから、実践してみましょうか。貴方の忘れたいことは、なんですか?」
仕舞う 眞柴りつ夏 @ritsuka1151
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