箱を抱え天使は舞い降り走り去るー箱を巡るショートバトル

神稲 沙都琉

第1話

それはちょうどお昼くらい?

少し大きめのショッピングモール。


ドラマの撮影かと思いたくなるような事件(?)が起きた。


屋上の吹き抜け部分から真下のフードコートへ女性が左手に箱を抱えてふわりと飛び降りてきた。


まるで猫のように。


ストンっと着地後、何もなかったように走りだす。


続いて今度は少しくたびれた感じの男性が階段を転がるように降りてきて女性を追いかけていく。


男性の後ろに何人かのスマホをかかげた集団。


どうやらこの追いかけっこを撮影してるようで。


3階部分から一気に1階へと軽々と飛びおりた女性をみようと2階通路は人であふれかえる。

ただ、遠巻きに眺めてる人、スマホにおさめる人、人…


女性は腰までの長い髪をなびかせ優雅に走り続ける。冬だというのに、ジーンズと半袖シャツだけ。

アスリートなのか、キレイな筋肉(変な表現だが)が細身の身体をおおっている。息が切れている様子はない。


他方、男性。よくみかけるぽっちゃり体型に眼鏡、上下ジャージ、ゴム草履に裸足。歳は30歳くらいか。

もう、かわいそうなくらいにゼーハーゼーハー言ってる。


どうやら、女性の抱えている箱を巡る争いらしい。


見た目。某大手のネットサイトのニッコリマークの普通の箱。


『いい加減にその箱を返して下さい』


しぼりだすように男性が女性へ声かけする。


『ヤバい箱って分かって返せるかよ』


女性はサラリと返す。かなり先に行っているので少し声が小さく聞こえる。


『見てたんだよ、お前がやってるの』

更に女性は続ける。


『誤解です。ヤバい箱じゃない』


『…か…え…し』


男性は力つき、倒れこむ。


床に大の字に寝そべる。


ソレをパシャパシャとスマホにおさめる人、人。


『お願いします、返して。勘違い』


息切れが凄すぎて喋れることができない男性。


女性は遠くまで行ってたのに律儀にも戻ってきていた。そして、仁王立ちで男性を見下ろす。


『勘違い?だって、アンタさ…』


一瞬、場が静かになった。

箱の中からチクタクという音。


数秒後。誰かが叫ぶ。


『爆弾だっ!爆発するぞっ!』


「蜘蛛の子を散らす」とはこのことかと思うように2人を中心にワッと一斉に人が離れて行く。


少し落ち着いたのか男性が叫ぶ。


『爆発しません。爆弾じゃないです』


ふうーっと息を吐いてすうーっと息を吸い込む。


『朝が弱い方が確実に起きれるようなものを作ってあげようとしていたんです。返して。お願いです』


最後は泣いてのお願い。


『開けて確認しても?』


男性は問いに頷く形で応える。


箱の中には。


目覚まし時計と可愛らしいヌイグルミ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱を抱え天使は舞い降り走り去るー箱を巡るショートバトル 神稲 沙都琉 @satoru-y

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ