第20話

「ゲホッ!?」


「ヒロ!?」


 薄れそうな意識の中、アイリスの声が聞こえた。


『あーあー、ちょっとは手加減したらどうなんですか? 勢い余って殺しちゃったじゃないですか。って……おやおや? まだ生きてる? 珍しい事もあるようですねぇ』


「く、クソ……」


 愛華達を懸命に治療するアイリス、そして今も広がっていく血だまりの中倒れ伏す凛子さんを見て、僕はなけなしの力を振り絞って立ち上がる。


「む、無茶です! そんな傷で……。それなら私が!」


「僕は、大丈夫。その内……勝手に塞がるから。それ……よりも、僕が気を引くから……凛子さんの事、頼めないかな……? お願いだよ……」


 先程は訳も解らない内に壁に叩きつけられてしまったので分からなかったが、腹部を爪で貫かれたようだ。僕は思いっきり穴の空いた腹部に一瞬手を当てて微笑むと、途中でロングソードを拾いながらエイリアスの元へと向かう。


『その傷で動くとは、おかしい……。確かにあれは……』


 何故か暫く動いていなかったエイリアスがこちらを認識し、こちらに向かって攻撃を繰り出してきて、僕は霞む視界の中懸命に防ごうとする。しかし。


「ッ」


 繰り出される爪をロングソードを防ぐが、最初は右耳次は左肩と徐々に体が削られていく。


 それでも、倒れそうになる自分を𠮟咤しながら無理やり立っていたのだが……。


「避けてくださいッ!」


 如何やら幾ら傷つけても倒れない僕に業を煮やしたらしい、エイリアスの背後に幾つもの魔法陣が展開されると幾つものビームが地面を焼く。


「まずッ……」


 ここで避けてしまうとアイリスと凛子さんに当たってしまう。僕は力……魔力を振り絞り、覆うように展開した。


「クッ……このォォォォォ!!」


 なんとかビームを防いでいたが、ビームが収束して威力が増してきた上に細いビームが地を這うように放たれて、魔力で作り出したバリアを貫通して右足の太ももや脇腹を貫く。


「アァァァァァ!」


 そして押し込まれながらも魔力バリアを無理矢理維持し、僕達は閃光に包まれた。


「……ヒロ? 噓……」


 閃光が止んだ後、僕は肘から先の焼失した右手を見た後倒れそうになるが、踏ん張り凛子さんとアイリスが無事かを確認する。


「良かっ……た」


「い、今治療します!! だから! だから!」


 アイリスの悲痛な叫び声を聞きながら前を向くと、エイリアスがその爪を振りかぶり、僕の首を刈り取ろうとする姿が目に映る。


「ダメぇぇぇぇぇ!!」


 ははは、死ぬのか……。死ぬ? このまま何も守れずに? それは……。


 いよいよ爪が振り下ろされ避けきれない死の気配を感じ取ったその時、いつかのようにまた世界が止まった。


『いやぁ……。俺は別段いいと思うぜ、綺麗な人間のままここで死ぬのも』


「君……は……」


 僕が声の出所を探り少し上を向くと、エイリアスの肩の上に彼は居た。


「なんでそんな所で座ってるの?」


 僕がそう問いかけると、彼……僕と瓜二つの謎の人物はエイリアスの肩から飛び降りる。


『いや、何となく。今はこんなんでも、元々はご同輩だからな……。お前ならわかるだろう? って今のお前に言っても無駄か。悪い悪い』


 何の話だろうか?


『まぁ気にすんな。それよか、ココに来たって事は力を求めたんだろう? 無意識だろうと何だろうと』


「そう、だね……」


『辞めとけ辞めとけ、良いか? 力を使いまくった日には、いつかはこの化け物と同じになるかも知れないぜ? というか高確率で。なら、このまま死んどいた方が俺とお前の精神衛生上断然いいと思うんだが? 俺は一向に構わんよ、人間のまま死ねるなら』


「……かもね。だけど死ぬのは怖いし嫌だ。それに」


『経験者が言うと違うねー。それに?』


「ここには、皆が居るから。物語として、に憧れと希望を与えてくれた人達。この世界に生きる僕に親しくしてくれる人達が。だから、僕はここで止まる訳にはいかないんだ」


『……はぁ。まぁ良いか。俺も知ってる人間が死ぬのを見るのは確かにご免だ。良いぜ、乗ってやるよ。ほれ』


 彼がそう言って指を鳴らした直後、途轍もない頭痛とともに幾つもの記憶が脳内に流れ込む。


 血に濡れた手、人間たちの死骸、飛び散る血しぶき、そして……鳩尾に魔力を集めて魔法陣が展開され目玉が開き、その中心より自らの身体から引きずり出すように生み出された、何処かで見覚えのある妖しく煌めく剣。


「な、なんだ今の……」


 まるで本当の記憶のような……。


 僕は剣を引き抜いた時の痛みに、自分自身の身に起きた事じゃないのに思わず鳩尾を抑える。


『さて、ちゃんと見れたな? お前に見せたのはあらゆる物を切り裂く魔剣、ダインスレイヴ。呼び出し方は分かったろ? じゃあ頑張れよ、俺』


 そう言い残して彼が消え世界が動き出していく中、僕は覚悟を決め先程の記憶と同じ様に魔力を鳩尾に集め、本能に従って魔法陣を生み出す。その中心に邪悪な目玉が開いた瞬間に、僕の周りに渦のように魔力が発生してエイリアスを吹き飛ばした。


「え、ヒロ……? これは一体……?」


 そうして生み出された目玉の中に、何となく魔力で繭を創るように右手を覆い再生させ、魔力を霧散させた後そのまま手を突っ込む。


 痛い、痛い痛い痛い痛い! だけど!


「来い! 我が血肉、我より生み出されし分身わけみにして、血に濡れた忌まわしい我が剣! 我が敵を……いや、人を殺すためだけじゃない、人を守る為に。大切な人を守る為に力を貸せ! ダインスレイヴ!」


 そして、僕はダインスレイヴを自らの身体から引き抜いて一閃。周囲を渦巻いていた魔力を引き裂き、エイリアスを見据える。


「お前は必ず僕が倒す。皆を守るために」


 さぁ、反撃を始めよう。


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……結局エイリアス戦が終わらなかった件。


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原作と関わらないように生きようとしたら、メインヒロイン全員知り合いだった 荒星 @emiya2002

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