曲の合間にいい夢を

秋犬

曲の合間にいい夢を

「なに? ︎︎音響が何故か故障した?」


 今夜の大きなライブイベントに前座として出演することが決まっていたバンドのメンバーは空を仰ぐ。


「何で今夜に限って……」


 そのライブイベントでは、大手のプロダクションから声がかかると噂があった。機材の故障により急遽ライブイベントが中止になったことで、朝から張り切っていたメンバーたちは尽く落胆した。


「仕方ない、今から押さえられるハコがあるか当たってみよう。チャンスはどこにあるからわからないし、普段のライブが俺たちの強みだ」


 バンドのリーダーは落ち込むメンバーを励ます。そして馴染みのライブハウスに連絡すると、ちょうどよく演者のキャンセルが出たということで出演を快諾された。


「よし、切り替えて行こう!」


 バンドのメンバーは活気づいた。そしてその日のライブはほとんど身内の観客ながら、無事に成功した。


 ***


「いい曲だよな」


 時空艇の中で、シノスはロードに同意を求める。別時空に入ってはいたが、2人はバンドの演奏をスピーカーから聞いていた。


「伝説のバンドだからね」


 予定していたイベントが中止になったため、急遽馴染みのライブハウスで演奏をしたバンドがあった。そこへちょうど同じくイベントが中止になったので、ふらりとその辺のライブハウスへ足を運んだ音楽プロデューサーがいた。


「伝説の始まりってのは案外偶然の積み重ねなんだよな」

「でもよく故障に見せかけて壊せたね。ヒヤヒヤしたよ」


 偶然がなければ、音楽プロデューサーはバンドの演奏をじっくり聞くことはなかった。そして彼らの才能を見出し、世界を大きく変える伝説のバンドへと変貌させていくこともなかった。


「ハコの大きさも時には大事だってことだ。さて次の時代に行くぞ」


 シノスは時空座標を切り替える。バンドの演奏はすっかり聞こえなくなった。


「よかったね」

「何が?」

「こうやって、素敵な音楽を素敵だと思えて」


 時空艇は音もなく時空の中を滑っていった。

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