第2話 仲間の死

 「うわあああ!」


 「ホーンラビットだ!気をつけろ!!」



 悲鳴と共に魔獣の出現を知らせる声にミカエルは剣を抜いた。


 ホーンラビットは、その名前の通り頭にツノの生えたウサギのことだ。普段はおとなしい魔獣だが、縄張りに敵が侵入した際には群れで襲ってくる習性がある。ホーンラビットはその強靭な脚力で相手に飛びつくと同時に頭に生えた鋭利なツノで急所を刺してくる。可愛らしい見た目だが、何人もの隊員が命を奪われている恐ろしい魔獣だ。


 ミカエルも応戦するが、茂みから突然飛び出してくるホーンラビットに苦戦を強いられる。ホーンラビットの猛攻をなんとか防ぎ後衛の人々を守るものの反撃までは出来ずにいた。



 「群れを抜ける! 後衛の者はタグを回収しろ!」



 前衛から隊の前進とタグ回収の指示がとばされた。


 タグとは入隊時に隊員全員が配られる紐で通された木製の板のことである。それには自分の名前が彫られており、首から下げるように命じられている。騎士団の人間は危険を伴う任務が多く、特に討伐隊は魔獣との戦いで命を落とすことも稀ではない。魔獣との戦いの最中に遺体の回収をすることは出来ないので、代わりにタグを回収する。それを騎士団本部に持ち帰り、団長へ報告を終えると家族の元へ還すという決まりがある。


 つまりタグ回収の指示が出されたということは隊員がこの戦いで死んだことを示していた。


 周りを見渡すと倒れている人、腕や脚、肩などを刺され流血しながらも戦い続けている人がいた。イーサ隊に加わってから魔獣とは何体も戦ってきたが、隊員が命を落としたことはなかった。ミカエルは仲間の死を目の当たりにして恐怖で足が動かなくなる。



 「いっ!!」



 背中に鈍い痛みを感じてミカエルは思わず声を出す。



 「しっかりしろ新入り! タグを回収するんだ!」 



 先まで陽気に話していた時とはまるで別人のように険しい表情の男性隊員に指示をされる。男性隊員に叩かれた背中の痛みに何故か安堵したミカエルは自分の足が震えてない事に気づく。ミカエルは一呼吸した後にタグの回収へと向かった。

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のような 汐夜 @shioya

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