のような

汐夜

序章 始まりの物語

第1話 ギフトのない主人公

 「俺の隊に失敗はない。それを肝に銘じて任務にあたるように」


 討伐隊イーサ隊隊長であるイーサ・ヴァレンタインの掛け声にその場が緊張感に包まれた。ミカエル・トレントもその一人だ。

 先頭が動き出し、それにあわせてミカエルもポテア山へ足を踏み入れた。



 「それにしてもたかが人の捜索で俺ら討伐隊をだすなんて異例だよな」


 「仕方ねぇよ。行方知れずになった男を捜索にでた支部隊員が行方知れずになったっていうんだから」



 ミカエルの前を歩く二人の男性隊員はそんなことをぼやきながら進んでいく。

 確かに魔獣の討伐を主な任務としている討伐隊にとって今回の任務は異例である。不満をこぼす男性隊員はミカエルに視線を向けると



 「ギフトのない奴は安全な所にいるだけで俺らと同じ賃金だなんていいよな」


 「それなら俺らもギフトなしで産まれたかったな!」


 「違ぇねぇ!色なしと違って髪色があればギフトがないなんて誰も思わねぇからな!」



 そう言い大口を開けて笑う。


 ギフトとは個人が持ってる能力のことを指している。剣術や建築など種類は多岐に渡り、ギフトによって職業を選ぶ人がほとんどである。現在ではギフト持ちが大半を占めているものの、解明されていない事も多く神からの祝福だと言う人も数多くいる。

 反対にギフトのない人は皆、輝くような白い頭髪であることからギフトも髪色もない色なしだと皮肉を込めて呼ばれている。

 ミカエルのように髪色はあるがギフトはないというのは極めて稀なことだった。


 ミカエルは後衛の隊員を守る重要な役目を担っている。前線での戦いを強いられている男性隊員にとっては安全な場所だと言いたいのだろう。

 大口を開けて笑っている彼らに怒りを覚えたが、自分が新入りということもあり諦めのような気持ちで怒りを鎮めた。



 「先輩達!騎士団ならギフトの有無で人を判断しちゃ駄目だって入隊の時に言われたじゃん。ミカエルも実力があるからイーサ隊にいるんじゃん。あと任務中何があるかわからないんだからお喋り厳禁じゃん」



 人差し指を口元に立てながら小声で話すのはイーサ隊隊員シャーロット・ゾアだ。


 分厚い雲が空を覆ったような暗い髪色に邪魔にならないようにと短く切られた髪。少女のような幼さの残る見た目通り誰にでも気さくに話す彼女だが、その見た目とは裏腹にイーサ隊の中で上位に入るほどの実力の持ち主である。

 ミカエルと同じ新入りでありながら、先輩隊員に砕けた話し方ができるのは彼女の実力と天真爛漫な性格からだろう。

 


 「新入りのお前らは知らねぇだろうが、ここには前に支部隊員だった時に同じような任務で来たことがある。この山は行方知れずになる奴こそ多いが魔獣も滅多に出ない穏やかな場所だ」


 「別名迷いの山なんて言われてる場所だからな」



 注意を全く聞かずに話し続ける二人に緊張感や危機感はないのだろうとミカエルは内心呆れながら後ろをついていった。



 「うわあああ!」


 「ホーンラビットだ!気をつけろ!!」



 悲鳴と共に魔獣の出現を知らせる声にミカエルは剣を抜いた。

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