【KAC20243】箱と女子。
マクスウェルの仔猫
第1話 箱と女子。
「おはようございます~」
しまった。
声が大きすぎた。
周りの住人様方に迷惑をかける訳にはいかないのだ。
まだ朝の七時。
「あはは、声がおっきくなっちゃいました。今回の企画に関係するんですが、しっとりひそひそと説明していこうと思います」
●
本当に大丈夫なんかなあ。展開次第ではグダグダになって『何だこれ」で終わっちゃいそうな気がする。
くう。せめてあの時グーを出してれば、これは春花の役だったのに!
とはいえ、今回の企画の肝の段ボールの置き場所は春花の親戚の叔父さんの管理物件の前だし、ロクな企画を思いつかない私にアドバイスをくれたり、格安の機材を探してくれたりする春花に無理は言えない。
きっと私一人だけだったら、『
本当に友達ってありがたい。
それに春花が面白半分で企画に参加する回は、視聴が伸びる。私の倍近い時もあった。
そこはちょっと嬉しい反面、ぐぬぬ、な気持ちもある。
あーあ、私も春花みたいに実家がお金持ちで、お目目パッチリで鼻が高くって、優しい笑顔が似合うナイスバディ女子だったらよかったのに。
一重瞼が涼し気で大人しめな感じがいいって、動画見てくれた人に褒められた事はあるけど、ごく少数でしかない。
嬉しいけど。
ありがたいけど。
嫁になってもいいですかって突撃したいくらい胸に来たけど。
でもさ。
自分でもわかってるもん。
華が無いって。
とはいえ。
へこたれてられないのだ。
私だって見てもらいたい。
モブ女子大生だって、自己顕示欲あるんだよ。
小林
自信を持って誇れる何かが、欲しいんだっ!
いや、熱く語ってる場合じゃないか。
どーどーどー。
続き続き。
●
「実はですね。私は今、とあるマンションの空き部屋の前で、おっきな段ボールの中に入っております。何してんだコイツ、と思われるかもしれませんが、今回は『見慣れない段ボールがうちの近くに出現したら』という企画をしていきたいと思います~わーわーぱふぱふー」
ここは後で効果音をいれる、と。
何か面白いイベント、起きないかなあ。
まあ、段ボールは家電店でもらってきた物だし、持ち込んだ食べ物や飲み物くらいしかお金はかかってないからどんな結果でもいいんだけども。
とにかく。
始まったからには全力だっ!
「行ってきまーす! あれ? お母さーん!」
お。
ちっちゃい女の子の声。
隣の部屋の方かな?
スマホスマホ。
部屋の外付けの換気扇に本命のカメラつけてもらってるから二段構えではあるけれども、撮れ高のいい方を使いたいしね。
空き部屋の前に段ボールなんてヘタしたら通報案件かもだけど、大丈夫かな。春花がそのあたり何とかできるか聞いてみるっていってたけど。どきどきどき。
「さっちゃん、どうしたの? ああ、それさわっちゃダメよ~? 不動産屋さんからね、『簡単な撮影があるかもしれないので、大きな荷物があったらそのままで』って昨日連絡があったの。何の撮影なのかしらね~」
おお、スゴイ! 取ってつけたような理由だけど、それなら……!
「さつえーってなあに~? すごーい! さっちゃんの背と同じくらいおっきーい!」
こ、こらこら。
段ボール叩かないでえ!
あ、違う!
ここでこの様子と自分を撮らなきゃ意味がない!
撮れ高!
撮れ高ぁ!
「あれ? 何かしら、箱に…………ぷふっ!」
あれ?
お母さんの笑い声が聞こえた。
何だろ?
「お母さん、どーしたの?」
「あー、おっかし! 箱にね、ネットで有名な女の子の名前にそっくりなのが書いてあってね」
何……だと?
「『箱音ミク』が入ってるんだってさ」
……!
…………!!!
!!
!!!
…………あっぶな!
噴きかけた!
春花!
何て事してくれるんだ、あんにゃろう!
箱に入った後に、何か書いてたのはこれか!
企画スタート一時間で終わるとこだっただろ!
ゆっくりと深呼吸をしながらスマホを構え直す。今いい感じなのかもしれない!
あ、女の子の顔映っちゃった。
後でボカシ入れないと。
「ほんとだー! あっれ~? お母さん、ここ『ク』じゃないよ! さっちゃん、絵本で覚えたんだもん!」
「あら、さっちゃんすごいなあ。なんて書いてあるの?」
「『ケ』だよ!」
『箱音ミケ』
「「ぶはあっ!!!」」
無理だった。
パチモンもいいとこだろがっ!
●
さっちゃんのお母さんにめちゃめちゃ怒られて、泣いて謝った。
でも。
春花と一緒にお菓子を持って『
また、泣いた。
【KAC20243】箱と女子。 マクスウェルの仔猫 @majikaru1124
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