ザマァされたのは俺だったのか
ワシュウ
第1話 箱を見るたび思い出す
俺には大学からの付き合いの彼女がいる
今年でもう十何年目
アイナとはサークルの飲み会で仲良くなって、軽い気持ちでお持ち帰りした
そしたら、まぁ初めてだったらしく
初心な反応もたまには可愛いと思った
それから懐かれたようで、よく話しかけられるようになり
学食でも隣に来るようになった
美人ではないけどブスではない、ちょっと丸っこい感じの子
当時、仲の良い女友達が何人かいたけど、いつの間にか連絡してこなくなり、誘っても無視されて関係が自然と切れた
仕方ないから、アイナと遊ぶようになり何度かそういう関係を持った
当時は、別に彼女って訳でもなくセフレに近かったと思う
彼女にすると「他の女に会うな」とか「今日は誰といたの」とかウザかったから、浅く広く付き合ってたつもりだった。
アイナとは、ダラダラとそういう関係が続いた
俺もたまにナンパした別の女と一夜を共にしたりしてたし
そんな関係が変わったのは大学卒業して就職する時だった
地方から上京して都会に住む話になった時に、アイナからルームシェアしようと持ちかけられた
「別に特別な関係になりたいとかじゃないの…私も東京で就職が決まったから」
「それにね、親が一人で住むのは反対してて、埼玉の親戚の近くの狭いアパートにしろってうるさくて」
と、理由はなんかそんなんだったと思う
俺も同棲するならと流石に考えた…そして
「もうこの際、ちゃんと付き合う?今まで中途半端な関係で悪かったな」
確かこんな感じで付き合い出したと思う
アイナは泣いて喜んでた
大学の奴らに「今まで付き合ってなかったのか」とか言われたな
付き合ったからと言って2人の関係が変化したわけじゃなかった
「知ってると思うけど俺は、束縛とかされたくない。別れてもルームシェアしていいけど…気まずくならないようにして」
今思い返しても俺は最低なやつだ
それから休日に2人で飲み行ったり、買い物や飯食いに行ったり。まとまった休みの時は遠出したり、月並みなデートしてた
ダラダラと付き合って気づけば、もう30前だった
周りでちらほら結婚するやつがいて、結婚を意識していた
25か26の時に、一度だけ結婚しない?と聞かれ
その時は、仕事が忙しくてチーフになれるかって時だったから
「まだ早いだろ?昇進するまで待って!」と先延ばしにした
それ以降聞いてこなくなったから、向こうも冗談で言っただけかと思った
ただ、なぁなぁになってたって言うか、結婚の踏ん切りがつかなかったのも本当
それで、ようやく決心して彼女の30の誕生日にプロポーズしようと思った
長年付き合って来たけど、結婚したいほど好きかと聞かれたら別にそこまでじゃない
でも今更、他の女と結婚するってなると…1から付き合うのも面倒
アイナは料理と家事は人並みに出来るし、それは俺も出来るけど
働きだして少し痩せたけど、アイナは美人ではなかった
女の結婚適齢期は30くらいまでたろ?
今までの情と思い出もあるし、責任は取ってやろうと思った
婚約指輪を買って、クローゼットに隠した
彼女の誕生日前日の日曜にレストランを予約した
アイナは土曜の昼からエステと美容室の予約があるからと楽しそうに出かけた
それは本当にたまたま偶然だった
時間が空いたから、その時やってたオンラインゲームのオフ会に参加した
彼女が立ち上げた定期オフだった
今まで行ったことはなかったけど、丁度お誘いメールが来てたから
そこで彼女の浮気を知る事になった
アイナが裏アカを作ってると教えてくれた
名前こそ違ったけど、持ち物や先日行ったレストランの画像でアイナだと分かった
そこには俺の愚痴や浮気相手に何を買わせたとか自慢していた
今日も浮気相手とデートだと書いてあった
過去ログを見ていくと
『多少の浮気は許すけど、顔だけが良い彼氏に寄ってくるハエを潰すのも大変よ。人の男に手出すやつは社会的に潰す!』
俺のスマホにストーカーアプリを入れてるらしく
俺のメールも全てチェックして、女の子がいたら嫌がらせメールを送っていたようだ…全然知らなかった
その他にも、クローゼットの婚約指輪を見つけ、勝ち組アピールをしていた
『負け組喪女ザマァ!顔もやばいけど中身も腐ってるから結婚出来ないんだねキャハ』
これは本当に彼女なのだろうか?
まだ信じられなくて、他人の事かもしれないと希望を待っていたが…
クローゼットに隠してた箱を勝手に開けて写真を撮ったのだろう、指にハメた状態の画像が貼ってあった
紛れもなく俺の選んだ指輪だった
指はむくんでるのに関節はシワが多く、彼女も齢を重ねた事がよくわかった。
普段から指なんてしっかり見ないからわからなかった
長年付き合って来たのに俺は彼女の表面しか見てなかったんだな
裏アカのコメント欄には、俺への同情や、こんなクソ女の彼氏もクソなどと書かれていた
確かに俺もクソだよ、大学時代にはセフレが何人かいたよ
人のこと言えないけど、付き合った当初は2人くらいは浮気してたよ
けどそれは若気の至りだ
最近は落ち着いて結婚を真剣に考えてたのにな
思ったよりもショックだった
アイナは、そんなに美人じゃないからモテないだろうと勝手に思い込んでいた
髪の毛をピンクに染めてインナーカラーがオレンジの個性的ファッションがウケたのか?
俺には魅力に思えない髪型も惹かれるやつがいたのか?
どうやって帰ったのか家についたらアイナがいて
飯と風呂の用意がしてあった
アイナ「先にお風呂入ったよ、御飯食べる?」
「風邪引いたかもしれない、体調悪くて食欲ない」
と返事してシャワー浴びてすぐに寝た
彼女と同じベッドだったけど、こう言っとけば別の部屋で寝れる
翌日の日曜、昼から映画を見て時間を潰し
夜に予約してたレストランへ向かった
体調悪くて元気ないと思われてたみたいだが
ショックから立ち直れて無かった
裏アカに
『結婚するから最後に生でしちゃった、デキてもどうせ彼はそういう事に気づかない』
と載ってた…それからヤる気にもなれずEDになった。
結局、彼女はおろした。
あれ以来してないから、何もなかったかのように過ごしてる
それも面白おかしく書いてあった
今となっては後悔してる
あの時にすぐに別れたら良かった
自分も浮気した事があるし、彼女に苦労をかけてたのもあって、なかなか別れを切り出せなかった
30後半に差し掛かり、アイナもすっかり老けてきた。
若い頃はまだマシに思えたけど年齢を重ねると共に太っていき……今は中年女にしか見えない
今ここで別れたら彼女はどうなる?
無駄に過ごした青春を返せと詰め寄られたら?と思う反面
他人の子をまた妊娠するんじゃないか?と思うと結婚しようと思わなかった
こんな事なら、25の時に好きだと言ってくれた女の子に乗り換えておけば良かった
美人だったから浮気するだろうと勝手に思い込んでいた
俺に彼女がいると知らずに告白してくれて、知った後で謝ってきて身を引いた真面目な子だった
今は結婚して子どもが2人いる、上の子は小学生だとその旦那が写真を職場に飾っていた
俺より仕事も顔も冴えない男だけど幸せそうだった
今もクローゼットにあの指輪の入った箱がある
それを見るたびに思い出す
END
ザマァされたのは俺だったのか ワシュウ @kazokuno-uta
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