千佳ならではの、赤いリボンで飾られた白い箱のお話。

大創 淳

【KAC20243】……箱。


 ――それは、白い箱。


 そっと、赤いリボンで飾られていた。



 お部屋の中、勉強机に置かれていた。さっきまではなかったのに……


 今日は三月九日。


 とっても静かな土曜日の午後三時。辺りを見渡すも、何の気配もない。


 佇んでいるのは僕一人……


 何も動いていない。ついさっきおトイレへ行く前と、それ以外はソックリそのまま。


 考えられるのは季節外れのサンタ君? KAC2024で、まるで国民的アニメのラパン三世と金型かながた警部のような激戦を、そらちゃんとサンタ君という男の子が繰り広げているから……そのはずみ? と思えたけど、僕とサンタ君の面識はまるでなし。


 お顔も姿も想像できない程の、初対面にも至っていない他人中の他人。


 そこでハッとなる。


 ――僕は誰なのか?


 と、いう疑問もそろそろ起きる頃だろう?


 一人称は『僕』だけど、僕は列記とした女の子。所謂ボクッ娘だ。そして僕は『ウメチカ』というペンネームで、この小説サイトの『書くと読む』でエッセイを書いている。作品名は『新章たるウメチカ!』……エピソードは、もう千回を超えていた。


 毎年恒例の、このKACも、本年で四回目を数えた。


 そして今、お題に沿って……


 箱が目の前に現れているのだから、僕の目は点になっていることだろう。そこから、どの様な展開をするのか? 選択肢は二つある。あくまで大まかにだ……


 その箱を置いた人物を推理する?


 それとも、今ここで、この箱の赤いリボンを解く?


 それによっては、お話もジャンルも変わってくる。前者を選ぶのなら、名探偵系の空ちゃんみたいなジャンルになってくるけど、後者を選ぶとね……


 この僕、星野ほしの千佳ちかのジャンルになってくる。


 だから解くのだ、この赤いリボンを。今この場で開けてみる、白い箱を。サイズにしてA3程。パカッとノートを、或いは分厚い辞典を開くような感じで開いてみた……


 すると、広がりゆく世界。


 オルゴールの音色に乗せて走る路面電車。緑とベージュの可愛らしい路面電車。しかも奏でているその曲は『三月九日』……僕には想い出の名曲。中等部の卒業ソングでもあったけど、何と言っても彼との想い出。そう……このお腹の子たちのパパとの想い出。


 しんみりと耽る想い出たち。


 涙を誘う程に……その時だ! 背後から、


「どうだ? 箱庭のレイアウト。気に入ってくれたかな?」と、姿を見せる、僕のお腹の中にいるこの子たちのパパ。そして事実上の、僕の旦那さんだ。名前は太郎たろう君……


「ちょっと、これどうしたの? まさかバレンタインのお返し? ホワイトデーはまだ先だと思うけど。……それに、こんなおいしすぎるものって、オーダーメイド?」


「今日は三月九日。千佳にとっては記念日だね。路面電車が好きな推しのバンド。その身体ではコンサートに行くのが難しいからと思って、俺からの細やかなプレゼントだ」


「ありがと。でも、高かったんじゃない?」


「いやいや、そこは多分、世界に一つのものだと思うから」……って、手作りなの?


 と、そう思った時だ。ササッと現れる、僕の双子の姉、梨花りかが。そして細やかな、


「種明かし。僕と太郎君の二人からのサプライズ。千佳は可愛い妹だから。……って、太郎君、何一人でカッコつけてるの? この企画考えたの、僕なんだからね」


 と、いうことだった。なら、この計画を考えたのは、梨花……ということになる。


 梨花もまた、僕と同じボクッ娘。


 見た目は僕と似過ぎる程、まるで鏡を見ているような容姿だ。声までもソックリ。


「と、いうわけで千佳、今年もまた挑戦だね、KAC。確かお題は『箱』だから、タイミング的にもバッチリでしょ。何せ、僕と千佳は影法師のような関係なんだからね」


 と、満面な笑みを浮かべつつ、梨花はガッツポーズ。


 そして、そっと太郎君は、僕の肩に触れた。


「ただの三月九日ではない。今日からの三月九日は、俺と千佳の記念日になるのだから」


 と、未来へ向けての約束。そうなのだ。指輪はまだだけど、今日の日は記念日だ……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

千佳ならではの、赤いリボンで飾られた白い箱のお話。 大創 淳 @jun-0824

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ