オッサンの生きる道

 説明会から、一週間が経った。


「ねえ。パパ。手が土まみれになった」

「後で洗えばいいの。ていうか、手袋はどうした」

「手が蒸れちゃうもの」


 オレとリヴァは、畑にいた。

 今は、二人で畑を耕して、作物を植えようって話だ。


 まず、初めにとうもろこしを植えようって話になり、オレはそれを手伝う形となった。


 説明会が終わってから、オレは何度もリヴァと衝突した。

 包丁で腕を切られたりもした。

 だが、オレは絶対に逃げなかった。


 むしろ、一度やられたら、変なスイッチが入るようになってしまった。


「学校に行かない分。こういう所で学ぶのもいいだろう」

「……誰のせいで行けないと思ってるの」


 学校では、リヴァの良くない噂が流れているとのこと。

 とはいえ、自分で蒔いた種だ。

 だから、オレは言ってやるのだ。


「堂々としてればいいんだよ。説明会に来てた人達と、顔を合わせたろ。交渉が進んで、お前が買った土地だってたくさんあるんだ」


 不景気で経営が上手くいかなかった工場だってある。

 使わなくなった農地だって、山ほどある。

 だから、一人一人と交渉して、金額や住める場所の確保など、みんなの相談を聞いて回っていった。


 全部、ジョンくんや所長の提案だ。

 オレは付きっきりで、リヴァをサポートした。


 リヴァは極度の人見知りというか、見栄っ張りというか。

 プライドが邪魔して、コミュニケーションの取り方が分からない子だ。


 オレは、彼女がと決めた。

 だから、決して一人にはしない。

 少なくとも、オレを殺さなければ、そうするつもりだ。


 そして、現在は買ったばかりの農地を自分の手で耕させている。


「面と向かい合って、みんなと話したんだ。恥じる真似なんかしてない」

「……お家に帰ったら、……甘えたい」

「家に帰ったらな」

「というより、どうして自分で耕すのよ。機械を使えばいいじゃない」


 思わず、ため息が出てしまった。


「あのな。これは、農家の人から聞いたんだ」


 確かに、機械は便利だ。

 だからといって、アナログの方法を知らないで、デジタルなものにばかり頼っていると、を見失ってしまうのだそうだ。


 これって、つまりは何かがあった時、原因を究明したり、対処が分からなくなることに繋がる。


 知識だけで何とかしようとすれば、なおさらだ。

 その知識には、微妙な天候の違いは入ってこない。

 土の状況や周囲に流れている水の状況だって、何もない。


 だから、自分で現場に行き、直接触れる事の大事さを教えている最中というわけである。


「だから、アナログが一番大事なんだよ」

「……ふん」


 オレもオレで、子育てについて色々と町のママさんから聞いたりした。

 反抗期だったり、物の教え方だったり。

 育てた経験のある人の意見は、やっぱり違った。

 何が大変かを具体的に知ってるから、本当に勉強になる。


「とうもろこしができたら、みんなで食べよう。それから、畑の元持ち主の人にもあげるんだ」

「独り占めすればいいじゃない」

「ダメだ。こういうのは、おすそ分けするんだよ。そうやって、人との繋がりを作っていくの」


 リヴァは不満そうだった。

 彼女が人の気持ちを知るまで、どれだけ掛かるか分からない。


「おぉ、……雨降るな」

「ええ!? どうして分かるの?」

「風が生温かいんだよ。これ、確実に降るから。覚えておけ」


 湿っているというか。

 心地良いくらいに温かい風は、昔から雨が降る前兆だ。

 初めは偶然かと思ったこともあるが、何度も予想は大当たり。


 だから、一つの民間の知恵として、リヴァに教えた。


「よし。次は、そっちの畝だ」

「つーかーれーた!」

「体鍛えてるだろ。ほら。やるぞ!」


 そわそわして、落ち着かない時が多いけど。

 オレは40歳にして、やっと人と出会えた気がした。


 この空が赤くなっても、オレは絶対にリヴァを責任持って守る。


 心に決めた通り、オレはリヴァの隣で耕し方を教えるのだった。

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高飛車なお嬢様がオレに執着してくる 烏目 ヒツキ @hitsuki333

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