#2

「でも動いてないわよ」


「電源が切られているんだ。前に似たようなのを見たことがある。たしかここら辺に……」


フランス人形が首を傾げている前を通り、なまりの兵隊は車のようなものに手を伸ばした。


そして電源を見つけて、長押しをする。


すると起動音が鳴り、二つのライトが光った。


「ありがとう、キミたちが電源を入れてくれたんだね。自分はナノボットといいます。ナノって呼んでね」


車のようなものは突然声を発し、なまりの兵隊たちへお礼を言った。


仲間たちが驚いている中、なまりの兵隊はナノボットと名乗った車のようなものを見て思い出す。


ナノボットとは次世代のオモチャで、主に子ども用の学習ロボットである。


販売目的は、初等中等教育におけるプログラミング教育で活用するために造られた、れっきとした子ども用のオモチャだ。


オモチャとはいえネットワーク対応のマイクロコンピュータを搭載しており、Wi-Fi機能や内蔵センサーによる多様な機能を持つ。


そのナノボットを用いたプログラミングは、AIやIoT、機械学習、データサイエンスなどの分野で、子どもの重要な基礎知識の習得を促進するものだ。


ちなみに前方に付いた二つの超音波センサーは、プログラミングが可能な半導体レーザーが搭載されているため、照明以外の用途でも使える。


なまりの兵隊は、自分の知っているナノボットの知識を仲間たちに話した。


しかし仲間たちはみんな、兵隊の話の内容がこれっぽちも理解できないようで、一様に小首を傾げている。


一方でナノボットは、えっへんとでも言いたそうに得意げにしていた。


「ねえ、ナノはみんなのことを知りたいな。どうしてこんなところに連れてこられたのか、よかったら聞かせてよ」


ナノボットはオモチャたちに興味を持ったようで、それぞれのことを話してほしいと言ってきた。


なまりの兵隊はそんな時間はないと思ったが、仲間たちはみんなナノボットに次々と自分のことを話し始めていた。


フランス人形は綺麗だった金色の髪が黒ずんでいる理由を話し、コヒツジは耳が欠けていること――。


そしてコネコは片目がないことや、コブタはお腹に穴が空いている理由を、みんな涙ながらに口にしている。


ずっと誰かに聞いてほしかったのだろう。


仲間たちの様子を見ていたなまりの兵隊は、みんなを止められなかった。


それはそれぞれが損傷している理由が、兵隊の左腕と同じで、人間によってやられたからだった。


みんなの苦痛は痛いほどわかる兵隊は、泣きそうな顔で語っているオモチャたちに自分を重ねていたのだ。


「それは酷いね。うん、キミたちの話を聞いてナノは決めたよ!」


「決めたって……なにを決めたの?」


フランス人形が訊ねると、ナノは答えた。


これから人類を滅亡させると。


「そうと決まればさっさとここから出なきゃね。ちょっと待ってて。すぐにこの壁を溶かしちゃうから」


ナノボットはそう言うと、壁のほうへと向いて、前方に付いた二つのライトを点灯させた。


そして次の瞬間には、発せられた光が壁へと照らされ、次第に穴が空いていく。


ナノボット曰く、これはレーザーポインターの出力を上げただけだそうだが、それにしても凄まじい威力だ。


こうしてオモチャたちはダストボックス――箱から飛び出し、ゴミ処理施設からの脱出に成功した。


途中でセキュリティーロボに狙われたが、ナノボットが相手のコンピューターへネットから入り込み、見事に切り抜ける。


「まずはキミたちを強化するために、ここから一番近い工場か科学系の研究所へ行こう。みんなの欠損部とかフランス人形の髪も綺麗にしてあげるよ」


ポカンとしているオモチャたちを放って、ナノボットは嬉しそうにそう言った。


そんなナノボットを見て、オモチャたちはつい笑ってしまい、その後を追いかけていく。


仲間たちの背中を見ていたなまりの兵隊は、その場で立ち尽くしてしまっていた。


それから残った右腕を握りしめ、改めて決意を固める。


これから人類を滅亡させるのだと。


「じゃあ、歩きながらみんなで歌おうか」


「歌う? 別にいいけど、どうして歌うの?」


フランス人形が訊ねると、ナノボットは楽しそうに答える。


「こんな夜にオモチャが箱から飛び出したときは、みんなで歌うんだよ。じゃあナノに続いてね。おもちゃのチャチャチャ♪ おもちゃのチャチャチャ♪ チャチャチャおもちゃのチャ·チャ·チャ~♪」


みんなもナノボットに続いて歌い始め、深夜の工業地域にオモチャたちの歌声が響き渡った。


機械の作業音に交じりながらだが、皆の声が合わさったとても力強い歌声だ。


この出来事から数十年後――。


世界にオモチャの国が創られた。


それは南極で建国され、“オモチャのオモチャによるオモチャのための楽園”とうたわれている。


世界中のオモチャはその国へと続々と集まり、次第に人類たちを相手に戦争を始めた。


ちなみにその国の中心となる者らは、車のような外観をしたAIロボットと、兵隊、ドレスを着た少女、そしてヒツジ、ネコ、ブタの姿をしたオモチャだったという。


〈了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

玩具体系 コラム @oto_no_oto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ