玩具体系

コラム

#1

とある日の夜、ゴミ処理施設にあるダストボックスに大量の不用品が放り込まれた。


ピット受入部から貯留部に、クレーン·バケットで移された状態だ。


「イタタ……。みんな大丈夫か?」


赤い上着に熊の毛皮の帽子を被ったなまりの兵隊が、一緒に放り込まれた仲間へと声をかけた。


なまりの兵隊は左腕がちぎられており、残った右手で倒れている仲間を立たせようとする。


「平気よ。でも、これからどうなっちゃうのかしら……」


花柄のドレスを着たフランス人形が、なまりの兵隊の手を取って不安そうに立ち上がった。


その金色の髪は、以前は輝いていただろうが、今は黒ずんでいる。


二つのオモチャが放り込まれたのは、世界中のゴミが集められるゴミ処理施設だった。


その中にあるオモチャ専用のゴミ箱だ。


使われなくなった世界中のオモチャは、すべてここへ捨てられる運命である。


なまりの兵隊もフランス人形もまた、持ち主に捨てられ、この箱へと放り込まれたのだ。


「ともかくここから出なきゃ」


「そうね。家にはもう帰れないけど、こんな墓場にいつまでもいたくないわ」


なまりの兵隊とフランス人形は、手を繋いでダストボックスの中を進んでいく。


中にはすでに動かなくなったオモチャで溢れており、二体はその光景に怯えながらもなんとかここからの脱出方法を考えていた。


しかしなまりの兵隊とフランス人形には、、四方を高い壁で囲まれているのが見えている段階で、ここから出るのは無理だとわかっている。


それでもどちらもそのことを口に出さず、ただ近くの壁に向かって進んでいく。


「うん? 見て、まだ動けるオモチャがいたわよ!」


「本当だ! おーい、おーい!」


なまりの兵隊とフランス人形は、目に入った動く物体へと近づいた。


そこには耳が欠けたコヒツジと、片目がないコネコ、そしてお腹に穴があり、綿が飛び出ているコブタ――三体のぬいぐるみがいた。


「君たちもさっきのヤツでここへ入れられたんだね。ボクらもだよ」


「ウチらはまだ運がいいよ。落下の衝撃で動かなくなっちゃったオモチャもいっぱいいたから」


「うぅ……そんなことよりもここはどこなの? アタシ、早くおうちに帰りたい……」


コヒツジ、コネコ、コブタの順番で声を出す。


どうやらぬいぐるみたちも同じクレーン·バケットで放り込まれたようだ。


なまりの兵隊とフランス人形は、状況はどうあれ、新しい仲間が見つかったことを喜び、みんなで箱の外へ出ようと声をかけた。


ぬいぐるみたちは最初こそ不安そうにしていたが、すぐに笑顔を返し、二体について行くことにする。


目指すは壁際。


とはいっても、とても高くて登れそうにない。


それでもなまりの兵隊には作戦があった。


それは動かなくなったオモチャの残骸を積み上げて、壁を越えるというものだ。


いくら動かなくなったとはいえ、同胞を物みたいに扱うのにためらいはあったが、今のところこれしか方法がないので仕方がない。


幸いなことに仲間も増えた。


時間をかければ必ず、壁の外へいけるほどの高さまで積み上げることができるはずだ。


「あなたのお腹、穴が開いているので、あとでワタシが縫ってあげる」


「ありがとう。フランス人形さんは優しいのね」


フランス人形がコブタに笑みを返し、コヒツジとコネコも彼女に礼を言っていた。


先頭を歩いていたなまりの兵隊が、その光景を振り返って微笑むと、突然上から何かが降りてくる。


それは先ほどオモチャたちを放り込んだのとは別のクレーンだった。


なまりの兵隊は咄嗟に仲間たちへ声をかけ、みんな慌ててその場から逃げ出した。


すると降りてきたクレーンはオモチャの残骸の中へと入っていき、残骸の撹拌を始めた。


これはゴミを均一に燃やすための混ぜ合わせだった。


だがオモチャたちからすれば、自分たちを処分する殺戮兵器にしか見えず、恐怖の対象でしかない。


「みんなもうすぐ壁際だ! 端っこならあれもオレたちを捕まえられない!」


なまりの兵隊の案は上手くいき、オモチャたちはクレーンの魔の手から逃れることに成功。


誰も欠けることなく、壁の前へとたどり着くことができたのだが――。


「ダメだよ、兵隊。ほとんど砂みたいになっちゃってて、いくら積み上げてもすぐに崩れちゃう」


「さっきのクレーンが暴れたせいよ。これじゃ兵隊の考えた作戦も実行できないわ……」


コヒツジとコブタがなまりの兵隊に向かって言った。


その傍ではフランス人形とコネコも苦い顔をしており、先の二体と同じことを言おうとしていたのがわかる。


そう、そうなのだ。


先ほど降りてきたクレーンが撹拌をしたのもあって、動かなくなったオモチャたちはちりになってしまい、壁を越えることができなくなってしまった。


塵も積もれば山となるという言葉があるが、いくらなんでも自分たちよりもはるかに高いところまで積み上げるのには、相当な労力がかかる。


そして一番の問題は、またいつクレーンが降りてくるかわからないことだ。


先ほどは壁際に逃げたことで助かったが、それがいつまでも安全だとは限らない。


それを考えると、塵で山を作っている途中に襲われ、壊されてしまう可能性が高い。


一体どうすればいいのか……。


なまりの兵隊が頭を悩ませていると、フランス人形がみんなに声をかけた。


「みんな、ちょっと来て! 壊されていないのがあったわ! 運ぶのを手伝ってちょうだい!」


フランス人形に声をかけられ、オモチャたちは彼女に駆け寄った。


そこには、タイヤが二つと前方に二つのライトが付いた車のようなものがあった。


仲間たちが早速運ぼうとしたときに、なまりの兵隊は慌ててみんなを止める。


「待った! こいつはまだ壊れてないぞ!」

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