【KAC20243】お題:箱 パート3

かごのぼっち

黒猫のクロ

 僕は黒猫のクロ。


 今は箱の中に居る。


 暗くて何も見えない。



 僕は飼い猫でとても可愛がられて育てられた。


 そして僕は聞き分けの良い猫だ。


 飼い主の言う事はきちんと聴くお利口な猫だ。


 今回も大人しくここで待っていれば、ここから出た時にご褒美をくれるに違いない。



 それなりに時間が経った。


 けどまあまだ数十分の話だ。


 そのうち出られるだろうと思っている。


 気長に待とう。



 飼い主と出会ったのは一年前。


 冷たい雨の降る夜だった。


 僕はまだ小さくてちょうど今のように箱の中に居た。


 飼い主はそっと傘を差し僕に微笑みかけてくれた。


 そして優しく抱えあげて温かい家に連れて行ってくれたんだ。


 温かいミルク。


 温かい毛布。


 そして、温かい笑顔。


 僕は本当に幸せな猫なのだろう。


 今もこうしているうちにも僕の為にご褒美を用意して待ってくれているに違いないのだから。



 でも、少し息苦しくなって来た。


 心做しか頭もフラフラする。


 もう少し。


 もう少し我慢しよう。


 そうしたらきっと。


 きっとまたあの笑顔で僕を迎えてくれる。


 抱きかかえて温かい家に帰れるんだ。



 意識が遠退いてきた。


 僕はやれる筈だった。


 飼い主さんの期待に応えられる筈だった。


 そして


 笑って


 抱きかかえて


 温かい


 家に


 帰る


 ……。



─コンコン


─カチャ


─キィ


「クロ?」


「……」


「クロ? 僕だよ? 僕が来たよ? クロ?」


「……」


 飼い主の声がする。


 そうだ。


 僕を迎えに来てくれたんだ。


 でも…。


 身体が動かない…。


 どんなに頑張ってもぴくりとも動いてくれない。


 悲しい…。


 悲しいなあ…。


 もう一度。


 あと一度でいいから。


 飼い主さんの笑顔が見たかった。


 飼い主さんの温もりに触れたかった。


 僕は飼い主さんの期待に応えられなかったから。


 ご褒美は…。


 もう…。



「死んだのか?」


「いや、眠っているのかも知れないぞ?」


「それもそうか、装置は作動していないからな」


「じゃあ、開けて確かめてみようじゃないか!」


「そ、そうだな!?」


─ガチャリ!


─バリン!


「「うわあああ!!」」





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