とある歌手の呪い
火属性のおむらいす
第1話
「ねぇ、知ってる?あのドラマの主題歌、【サラ】が歌うんだって!」
「ほんと!?私最近めっちゃハマってるんだよね〜。楽しみ」
人と建物で溢れる街、東京。そのありふれた一角できゃあきゃあと一際高い声をあげる女子高生の横を、彼女は無言で通り過ぎる。
(あのサラ…か。)
ふと顔をあげれば、先程女子高生たちが噂をしていたドラマの広告がでかでかと表示されていた。鮮やかな文字が目に痛い。ふいと顔を背けて、彼女は見慣れたの建物へと足を進めた。
自動ドアを抜けると外の寒さは一瞬で消え、空調のよく効いたロビーが彼女を迎え入れた。どこか緊張感のある空気に背筋を伸ばしながら、彼女は目的の人を探して辺りを見回す。
(確かこの辺で待ち合わせのはずだったのだけれど…)
腕時計をちらりと見やると、まだ少し余裕のある時間だった。早く来すぎたのかもしれない。連絡してみようかとスマホを手に取って、若干躊躇って結局やめてしまった。
(もう少しすれば来るだろうし、端の方で待っていましょうか。)
そう思い直してスマホをポケットにしまったところで、誰かに声をかけられる。
「すみません、遅くなりました!」
「いいえ、私もさっき来たところですよ。気になさらないでください。」
彼女は慌ててやって来たであろうその女性に控えめに微笑む。
「時間も良い頃ですし、行きましょうか」
「はい!今日は___」
スケジュールを聞きながら、彼女は女性の隣を歩く。
(…今日も頑張らないと。私に期待してくれている人たちの為に)
「最近はかなり人気が出てきましたね。前に比べて忙しくなったでしょう?無理はなさらないでくださいね」
女性に…彼女のマネージャーに声をかけられ、彼女は微笑んだ。
「ええ。本当にありがたい限りです。なんだか実感が湧きません。…本当は全部夢なんじゃないかって、いつも考えてしまうんです。」
「いえいえ、夢なんかじゃありませんよ。確かに貴方の__【サラ】さんの歌声を、待っている人がいるのですから。」
そうですね、と返し、サラは軽く俯いた。
(本当に全部、夢なら良かったのに。)
『__ねえ
数年前交わした、あの子との約束が、その大好きな声が、今でも心から離れない。
(うんって、答えたのに。私は…)
あの子を置いて、こんな遠い所まで。
「…サラさん?どうかされましたか?」
マネージャーの声に、彼女はふと我に返る。
「いいえ、なんでも。」
ぎこちなく笑顔を作りながら、彼女はいつの間にか止まってしまっていた足を無理矢理動かした。
呪いのように頭の中で繰り返し繰り返し流れるあの子の言葉を、必死に振り払いながら。
とある歌手の呪い 火属性のおむらいす @Nekometyakawaii
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