あなたの復讐引き受けます。 2人台本 (不問2)

サイ

第1話






ノアール:あ、メールだ。


ブラン:メール…?今時そんなセキュリティがばがばな連絡手段でコンタクトとってくる人いるんだね。


ノアール:相手は人間だからな…多めに見よう。


ブラン:で、どういうご用件だって?


ノアール:今データを送ったよ。


ブラン:ほーい。…ふむ、長い文章だな。要約すると、すんごいムカつく奴がいるから、めっちゃ苦しむ方法で始末してくれってことね。


ノアール:経緯の部分全部切り落としたな。


ブラン:ぶっちゃけどんな事情があったとか興味ないしね。ちゃんと仕事に見合った対価が支払われるなら、事情なんていらないし、知りたくもないね。


ノアール:血も涙もないな…。


ブラン:ないし。実際。


ノアール:そうだけどさぁ…。


ブラン:人類がヒューマノイドを初めて作ったのが20世紀ごろ。そこから人類は試行錯誤を繰り返し、より人間らしくを追求していった。


ブラン:ヒューマノイドを人間そっくりに作り上げることに成功した人類は、やがて自分たちが機械に近づこうとした。


ノアール:ニューロチップのこと?


ブラン:脳内にニューロチップを埋め込んで、運動に使ったり、テレパシーをしたり、政府が思考を管理したりするようになった。


ノアール:ブラン?


ブラン:政府が、犯罪を起こそうとしている人間の動きをフリーズさせる。犯罪を起こしそうな思考の人間はあらかじめマークされるから、犯罪件数は過去と比べて劇的に減ったのだ!


ノアール:ブラン。


ブラン:じゃあ犯罪にならないような、ムカつくことをしてくる人間に仕返しをする方法はないのか?泣き寝入りするしかないのか?!否!!そういう人間のために、我々始末代理業がいるのさ!!


ノアール:誰に向かって喋ってるの?


ブラン:これを聞いている皆さんだ。


ノアール:別次元にいる誰かを知覚している…?


ブラン:さて、完璧な判断ができるという理由で政府すらもヒューマノイドに置き換わった現代で、すっかり人間の地位は落ちたわけだが、


ノアール:まだ続いてるんだ。


ブラン:政府は「個人」の思考は覗き見ても、「個ヒューマノイド」の思考は見ていない。つまり、ノーリスクで超残虐な復讐なんかも、ヒューマノイドに依頼すればできちゃうわけだな。


ノアール:気が済んだ?


ブラン:これを聞いてる人はきっと、アシモもペッパーも最近見なくなったなぁとか言ってるような時代の人たちだから、丁寧めに説明したんだけど、どうだろうね。


ノアール:いつの時代なの、それ。


ブラン:閑話休題、今回の依頼だけど、始末方法はどうしようか。


ノアール:えっと、たしか掃除に厳しいお姑さんがターゲットだっけ。


ブラン:そうそう。いるよね、ねちねちとさ。やれココに埃がとか糸くずがとか。


ノアール:わかるけど…死んで欲しいほど?


ブラン:勉強しようと思い立った瞬間に「勉強しなさい」って言われるくらい、腹が立つと思う。


ノアール:それ、そんなに?


ブラン:それが毎日、いや、一日に何度も起きていたら、まぁそう考えるのも無理はないんじゃない。


ノアール:溜まってたのか。


ブラン:そうだなぁ、苦しんで死んでほしいってことだからな。お姑さんには、ゴミ拾いでもしてもらうか。


ノアール:ゴミ?


ブラン:うん、決めた。早速作戦に取り掛かろう。






ブラン:はい、ということでね、今回はちびブランにお姑さんを監視してもらいまーす。


ノアール:大昔の動画投稿者さん…?


ノアール:というか、ちびブラン?初めて聞いたんだけど。


ブラン:ああ、極小サイズのドローンだね。人間の目では感知できないやつ。


ノアール:あれ?この間はミニブランって名前じゃなかった?


ブラン:ああ、あれ。あれから改良を加えて進化したから、名前も変えたのよ。


ノアール:すごくどうでもいい情報だった…。


ブラン:さぁ、そろそろお姑さんがお庭に出てくる頃だね。


ノアール:ゴミ拾いをしてもらうんだっけ。


ブラン:そう、お庭にゴミを一つ、わざと落としておいたよ。ちなみに依頼人を含む、非ターゲットは適当に理由をつけてこの家から離れた場所にいるよ。


ノアール:…何する気?


ブラン:まぁ見てなって。お、出てきた出てきた。


ノアール:なんかぶつぶつ言ってるね…依頼人のことを言ってるみたい。「シャンプーのボトルの底が少しぬめってた」…?


ブラン:そんな気になるなら自分ですればいいのにね。もしくはチェックリストでも作る?


ノアール:チェックリストは面倒そうだなぁ…。


ブラン:たしかに。やっぱ気づいた人がやるほうが一番丸いのかな。


ノアール:難しいね…あ、お姑さん、何か落ちてることに気付いたみたい。拾い上げたよ。


ブラン:ナイス!そしておそらくお姑さんはこう言う!


ノアール:「こんなところにネジが…またあの人は適当に掃除して!目の前に突き出して見せてやんなきゃ!!」だって。


ブラン:イグザクトリー!計画は100%達成だ!あとは行く末を見守るだけだ!!


ノアール:しかし、ネジ1本だけ?これで何になるの?


ブラン:ノアール、我々はヒューマノイドだよ。ただのネジ一本なんて人間でもできる。つまりあれは、ただのネジではないのさ。


ノアール:…周りの人間の避難、ネジ…。もしかして。


ブラン:そう、あれはイリジウム。放射線を放出する物質だね。人間の場合、ちゃんと防護服を着用しないと放射線被曝でとんでもないダメージを負うね。


ノアール:たしかに、人間には難しい方法だね。


ブラン:だろう?ちなみに「あの人」は一週間帰ってこない予定だから。


ノアール:あ、終わったね。


ブラン:さ、あとはゆるりと被曝で体がボロボロになる様子を眺めましょうかね。






ブラン:心拍止まったね。いや、なかなかに手強い人間だった。


ノアール:グロいなぁ…。これもちろん片付けは…。


ブラン:今から行くに決まってるだろ。行かないと放射能が垂れ流し状態だ。


ノアール:いや…ちょっとこれは…近くで見たくないというか…。


ブラン:えー!これ一人で片付けんの?!


ノアール:気分が悪くなりそうだし…。


ブラン:そんな人間みたいなこと言って…他のヒューマノイドの前でそんなこと言ってたら馬鹿にされるよ?


ノアール:はいはい。今度はちゃんと行くから。ね。


ブラン:ちぇ。別にいいけどさ。




ブラン:しかしノアール。君ってばよく人間みたいなこと言うけど。あんな欠陥だらけの生物のどこがいいんだ?何が良くてそんなに肩を持つんだよ。


ノアール:…肩を持ったつもりはないけど。


ブラン:そうか…?まぁ人間ごっこは適当にしておけよ。


ノアール:忠告ありがとう。依頼人へはこちらから連絡しておくね。


ブラン:ほーい。それじゃ片付け行ってくるわー。


ノアール:行ってらっしゃい。






ノアール:ブランだって、十分欠陥だらけだと思うけどね。節穴みたいな目をしてるじゃないか。


ノアール:…とはいえ、そのおかげで生きながらえているわけだし。感謝しないと、か。

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あなたの復讐引き受けます。 2人台本 (不問2) サイ @tailed-tit

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