第9話 風景描写 都会
彼女にとって、マンションの屋上から見えるのは、まさに“絶景”としか形容できなかった。
高いところの景色なんて、見てるだけで怖くなる。そういう人もいるかもしれない。だが、本当の“絶景”というものは、そんな考えさえ頭から忘れさせてしまう、そんな力があるのだ。
ただの夜景だと、そう切り捨てる人もいるるかもしれない。だが、この景色を特別に感じた私の感性を否定する権利を持つものは誰もいないのだ。
そう、彼女は己の見た光景を肯定的に捉えた。
彼女の視線の先にある夜景。それは、多くに人々が生活するためにしよしている光によってできている。
建物も、道も、それを照らす光も、全て人の手で生み出されたものでしかない。唯一、人の手が介在していないのが、夜の闇と空に浮かぶ月と星々のみ、と言えるだろう。
夜景に魅了されるのはなぜだろうか?
この無数とも思える人々が、夜でさえも活動している事実が関係しているのか? 違うだろう?
ただ単に、さまざまな色のある光に、どこか惹かれるものがあるという、ただそれだけの話なのだ。
幾重にも重なるビル群に、灯るいくつもの光。考えてみれば、夜中の10時過ぎにいまだに光がついているということは、ブラックな会社と考えられるだろう。
そこに美を見出すとは、人とはある意味恐ろしいのかもしれない。それは無知なのではなく、知っていてもその事実を絶景への感情の前には意味をなさないということにあるのかもしれない。
視点を変えてみると、夜景はまた恐ろしい事実を孕んでいる。
光を得るために人々は二酸化炭素を出している。夜の地球を写した衛星を思い出してほしい。
あの光を得るためにはどれほどの二酸化炭素を排出する必要があるのか。
自らの足場が崩れていくのも、知っているのに普段は意識しないことである。
この夜景の中で、さまざまなドラマがあるのだろう。
仕事をするもの、娯楽に耽るもの、日常を謳歌するもの、寝ているもの。夜景はそれらを抱き、煌々と光を照らしているようだった。
息抜き 碾貽 恆晟 @usuikousei
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