箱の中のワンダーランド

季都英司

箱の中に無限の世界を創った少年のお話

 箱の中は別の世界への入り口だった。

 僕にとってこの箱は、不思議で素敵な箱だった。

 この中に入れば、いつだって自分の望む世界に行くことができたんだ。

 僕の背の半分くらいの高さの、とっても大きな白い箱。

 外側にはいろんな文字が書いてあって、読める字も読めない字もあるけれど、きっと不思議な魔法の言葉が書いてあるに違いないんだ。

 いつか勉強すれば読めるようになるのかな?


 僕はこの不思議な箱の上にある蓋を左右に開けて、よいせっと大きく足を上げて、片方ずつ中に入り込んでまた蓋を閉める。箱を倒さないように注意が必要なんだ。


 中に入る時に忘れちゃいけないものが2つ。

 1つはランプ。これがなくっちゃ中は真っ暗だからね。別の世界を探検するには、なくちゃならない大事な装備。


 もう1つはクレヨンと紙。これがなくっちゃ別の世界の扉は開かない。僕にとってはこれが魔法の道具だし、別世界の扉の鍵なんだ。


 あとはその日にもよるけど、水筒とおやつ。

 大好きなチョコレートなんかあると最高だけど、今日はクッキー。

 もちろんこれも大好きだけどね。


 僕は箱の中に入ると、ランプのスイッチを入れて辺りを照らして、うーんと首をひねる。

 今日はどんな世界に行ってみようかな。


 おとといは、かわいくて不思議な動物がたくさんいる絵本の世界に行ってみたんだよね。

 角の生えたウサギと遊んだりとか、光る鳥を観察したりとか、歩いてしゃべる顔の付いたおっきな樹に話しかけられたりもした。

 こっちの動物園じゃ見たこともない動物たちがたくさんいたし、空飛ぶ馬に乗っていっしょに空も飛んでみたんだ。


 昨日はファンタジーの世界にしたっけ。

 剣と魔法で戦うかっこいい世界。

 僕は伝説の剣を持った魔法剣士になって、悪いドラゴンをやっつけたりした。村のみんなに勇者だってほめられてとってもうれしかったんだ。

 少し照れくさかったけどね。


 さて、今日はどうしよう。

 そう思って周りを見ると、昨日の世界が箱の中に見えている。

 前の壁には、昨日倒したドラゴンの絵。

 右の壁にはお城と助けたお姫様の絵。

 左の壁には僕を助けてくれた、仲間の魔法使いの絵。


 そう。箱の中の世界は、僕が描いた絵の世界。

 紙を貼ってクレヨンで描けば、紙の分だけ新しい世界が僕の前に広がるんだ。

 他の紙を剥がして前に描いた紙を出せば、前に行った世界にだってすぐ行ける。

 この箱は狭いけど、でも僕が空想したすべての世界が詰まった、無限の世界の入り口でもあるんだ。

 もう行った世界も、まだ行ったことのない世界も、これから行ってみたい世界も、全部がこの箱の中にある。

 楽しくて素敵で、どこまでも広がっていて、なんだってできる不思議の世界。

 その世界では、僕は何にだってなれるんだ。



 そうだ、今日は未来の世界に行ってみよう。

 今日のこの箱は、未来につながるタイムマシンだ。

 早速僕は、昨日の絵の上に白い紙を貼って、クレヨンの箱を開くと、あちこちに絵を描いていく。

 未来には何があるのかな。

 とってもかっこいい空飛ぶ車は最初に描いてっと。

 でも、車じゃなくて自分が空を飛べる機械の方が面白いかな。

 食べたいものが何でも出てくる機械もあったらいいな。機械に頼めば大好きなチョコレートだってすぐにでてくるんだ。

 そうだ、宿題をやってくれるロボットも描いてみよう。そういえば、明日の宿題やってない。

 ……気にしない、気にしない。

 あとは世界のどこにでも行ける扉なんてのもいいかなあ。って思ったけど、それはもうここにあるんだって思って僕はくすりと笑った。

 ここは世界のどこにでも行ける扉だし、無限の世界そのものでもあるんだ。 


 僕は知ってるよ。

 こういう世界のことをワンダーランドっていうんだ。

 無限の世界と無限の可能性。

 僕は何だって出来る。どこにだって行ける。

 

 不思議の世界は僕のおうちの中にある。

 いつだって素敵で楽しい、

 箱の中のワンダーランド。

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箱の中のワンダーランド 季都英司 @kitoeiji

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