【KAC2024】巻き戻し探偵神宮寺那由多は巻き戻す ニコラ・フラメルの箱

白鷺雨月

第1話ニコラ・フラメルの箱

神宮寺那由多は黒い箱を見ていた。

応接間の机の上に真っ黒な箱が置かれている。五十センチメートル四方ほどの大きさの箱だ。

そして神宮寺那由多の向かいには依頼人である原圭介が座っている。


「この箱は祖母の形見なんだ。祖母の絹絵きぬえが遺言でこの箱を一人で開けてはならないって言っていた。ニコラ・フラメルの箱って祖母は呼んでたよ」

原圭介は神宮寺那由多の童顔を見ながら言った。


「それで私のところにきたわけね」

微笑し、那由多は言った。

一人で開けてはいけないとはどういうことだろうか?

那由多の胸にむくむくと好奇心が沸き起こる。


「そういうことだ。神宮寺、あんたはそういうの専門の探偵だろう」

原圭介は神宮寺那由多に言う。

「まあ、そうだな」

那由多は答えた。


神宮寺那由多のところにはどうしてかわからないが、普通では考えられない不思議な事件ばかり舞い込む。原圭介が持ってきた案件もその類いだ。


「わかったよ、同級生の頼みだ。聞いてやるよ」

そう言い、那由多は黒い箱に手をかける。

「さあ、開けるぞ」

那由多は蓋を両手で挟む。

その様子を固唾を飲んで原圭介はじっと見ている。


ゆっくりと那由多は黒い箱の蓋を開けた。

その中をのぞきこむ。


その箱の中には二人の人間がいた。

男女の二人組だ。

向かい合わせに座り、黒い箱を覗いている。

那由多はその二人を見て、はっと思った。

その箱の中には自分たちがいた。

自分たちと同じように箱を覗き込んでいる。

さらに箱の中の箱を見るとそこにも自分たちがいる。


那由多はこれはまるであわせ鏡ではないかと思った。

無限に箱の中に自分たちがいて、その箱の中に自分たちがいる。

恐る恐る那由多は天井を見る。

見慣れた天井ではなかった。

天井がなくなり、誰かが自分たちを見ている。その黒い瞳には見覚えがある。

那由多自身のものだ。


その瞳はまばたきしている。

やがて巨大な指先が那由多たちをつかもうとしてくる。

慌てて、箱の中をみるとその箱の中の人物もなにかをつかもうとしている。

つかまれたらどこにつれていかれるかわからない。

慌てて蓋をしめなおそうとするが、どうしたものかうまく閉まらない。


ちっ仕方がない。

那由多は舌打ちし、時間逆行能力がある愛用の銀の懐中時計を握りしめる。

懐中時計の針が逆回りする。

それと同時に時間が巻き戻る。



「この箱は祖母の形見なんだ……」

数分前に戻ることができた。

那由多の顔に冷や汗が流れる。

「原、そいつは開けちゃあいけない……」

那由多は原に言った。

「そうか、もう見てきたんだな。神宮寺がそう言うなら、開けないよ」

原圭介は言った。

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