バースディプレゼント
浬由有 杳
第1話 バースディプレゼント
H氏は、受取書にサインしながら、『生物取り扱い注意』のラベルが貼られた箱を受けとった。
宅配人が立ち去るのを待って、事務所の扉を閉めた。
箱に耳を当てて中身の状態を確認する。
どうやら問題はなさそうだ。
娘の喜ぶ顔を思い描いて、ニンマリと笑った。
自分でカギを開けて自宅に入ると、箱を手にリビングへ急ぐ。
「お帰りなさい。遅いから心配してたところよ」
「大切な娘の誕生日だからな。どんなことをしてでも帰るさ」
笑顔で迎えてくれた妻の頬にいつものように『ただいまのキス』を一つ。
すでにいくつか色とりどりの箱~親戚からのプレゼント~が載せられたテーブルの上に、子供一人分は入りそうな箱をそっと置いた。
「それが、そうなの?」
小声で尋ねた妻に頷いてみせる。
「ああ。あの子は2階か?」
「2階でお兄ちゃんたちとゲームしてるわ。少なくともあと1時何くらいは降りてこないから」
妻が答えた。
「料理の方もほぼ準備完了よ。お義姉さんたちが手伝ってくれたの。お義兄さんも買い出しからもう戻ってこられるはずよ」
「そうか。じゃあ、急いでラッピングしようか」
「リボンなら用意してるわ。私に任せて」
「気にいってくれるといいが」
「大丈夫。きっと喜ぶわよ、あの子。ずっと欲しがっていたじゃないの」
今日は一人娘の誕生日。
それも、学齢児と呼ばれる年齢になる、特別な誕生日だ。
誕生日、おめでとう!
娘は満面の笑みでありがとう!と言った。
テーブルの中央には、ひときわ煌びやかにラッピングされた箱。
「パパ、開けてもいい?」
「もちろん」
箱を開けたとたん、娘が嬉しそうに悲鳴を上げた。
「いいかい。世話はきちんと自分でやるんだぞ」
「根気よく教えれば、言葉もいくつか覚えられるそうよ」
箱の中には、緩衝材に埋もれ、両手両足を縛り付けられた少女がいた。
太陽系第3惑星の固有種で今や絶滅危惧種である『人類』。
少女は怯えた目で、6つ目で3対の手足をくねらす彼らをただ見つめていた。
バースディプレゼント 浬由有 杳 @HarukaRiyu
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