【KAC20243】愛と醜い箱
あばら🦴
愛と醜い箱
部屋の中で楽に座って、僕たちはそれぞれの箱を机の上に置いた。顔よりも一回り大きな白い箱が二つそこにある。
「じゃあ、開けるよ」と僕が言う。
「うん」と彼女は言う。
僕たちは同時に自分の箱を開けた。
僕の箱も彼女の箱も、それはそれは醜かった。
僕の箱も彼女の箱も、中には得体の知れない肉のようなぐちゃぐちゃとした赤黒いものでいっぱいだった。
僕も彼女も照れくさそうに微笑んだ。
「いい?」と僕は聞く。
「いつでも」と彼女は言う。
僕はぐちゃぐちゃとした赤黒い物体に手を突っ込んだ。ずぶずぶと沈む手に伝わる触感は、ドロドロでネバネバで生暖かくて非常に不快で、今すぐにでも手を引っ込めたかった。
しかし彼女の前では安心できた。
彼女も僕と同じように箱の中の赤黒い物体に手を入れていた。僕と彼女が目を合わせると、「なんだか恥ずかしいね」と彼女が笑った。
僕たちは合図も無く同時に手を箱から出した。そして僕たちの手にはお互いの赤黒い物体が一掴み握られている。
僕たちは合図も無く同時に相手の箱に赤黒い物体を突っ込んだ。僕の赤黒い物体が彼女の箱の中の赤黒い物体と一体化する。彼女の箱の中に手を入れている時、僕との箱の中と同じような不快感があったが、しかしその生暖かさはむしろ心地良かった。
この不快感を感じられることに僕は嬉しさが込み上げた。彼女が拒絶してこないことがすごく嬉しかった。
彼女も僕と同じように彼女の赤黒い物体を僕の赤黒い物体と一体化させている。僕と同じことを思っていたのだろうか、彼女の顔が赤らんでいて、そして飾りではない笑顔を浮かべている。
僕たちはゆっくりと僕の箱から手を引いた。彼女の手に彼女の赤黒い物体はもう無かった。彼女の手にはまだ赤黒い物体がベタベタと張り付いていたが、彼女は気にする様子が無かった。
そのままにされている彼女の手に僕は嬉しさが込み上げた。彼女が僕の不快感を拒絶しなかったことがすごく嬉しかった。
僕も彼女も手の赤黒い物体をそのままにしながら無言で見つめ合った。
すると、彼女は口を開いた。
「ありがとう。愛してる」
【KAC20243】愛と醜い箱 あばら🦴 @boroborou
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