ACT6

『お望み通り外へ出てやるよ』

 俺は銃口をコルト男のこめかみにくっ付けたまま、他の連中に声を掛けた。

『なるほど、ここは中立地帯だそうだからな。そこでドンパチは幾ら何でも避けなきゃならない。って訳だ』

 俺はカウンターの向こうで目をむいて事の成り行きを見守っていたマスターに、

『金はそのままにしとけよ。バーボン一杯分だけ後で回収にくる』

 俺が表に出ると、他の連中も妙な顔をして後に続く。

 外はもう真っ暗・・・・と言いたいところだが、まだまだ明るい。

『ほらよ』

 俺がコルト男を放してやると、

『やっちまえ!』声を掛け、銃口がこっちに向く。

 その時だ。

 黒塗りのベンツが突然現れ、後部座席のウィンドが開き、中から声がした。

『どうした?何があった?』

『ああ、大兄様、実は・・・・』

 コルト男が急にへりくだった声を出し、ベンツに近づいて何か話しかける。

 するとドアが開き、痩身で背が高く、目の鋭いマオカラーのスーツを着た男が降りて来た。

『誰かと思や、探偵さんじゃないか?!』

 相手の顔をよく見る。

 なるほど、確かに見た顔だ。

 東南アジアや日本海沿岸まで取り仕切る”組織”の事実上の首領といってもいい”大兄”氏である。

 どうやら、俺にインネンを付けて来たのは、彼の子分らしい。

『みんな、武器を下ろせ、この男は私の”客人”だ』

時の氏神とはこういうことを言うんだろうか?俺はそんなことを考えながら、拳銃をホルスターに戻した。


 俺はベンツの後部座席で、大兄氏と並んでグラスを傾けていた。

『生憎ここにはバーボンがなくってな』彼はすまなそうにいい、ドンペリを引っ張り出して来た。

 手ずからグラスに注いでくれる。

『あの酒場で銃を抜くくらいなら、何で私の名刺を出さなかったんだ』

『忘れて来たのさ。日本に、それに今回の仕事とは無関係なんでね』

『それにしたってここはアジアの内だ。どこだってこっちの息がかかっていない場所なんかない。だったら・・・・』

『俺は水戸黄門の”葵の印籠”なんか振り回すのは性に合わないんでね』

 苦笑いをしながら、彼は二杯目を口にした。

『その様子じゃ、何の用事でこの島に来ていたかって聞いたところで、話さないだろうね』

『分かってるじゃないか』

 俺はごちそうさん、そう言って車を降りようとした。

 大兄氏は、”これ以上は何も聞かないが”と前置きしてからこう続けた。

『今、この島は揉めまくっている。俺の組織ともう一つ、別の組織が身の程知らずにも噛みついて来ている。悪いことはいわん。さっさと帰るんだな。脅してるんじゃない。心配しているんだ』

『そう言われて簡単に手を引く俺じゃないってことも、あんたなら分かる筈だぜ』

 彼は苦笑しながら『そういう乱暴なところも君の魅力なんだがな』そういって、くれぐれも気を付けろよ、と俺の背中に声を掛けた。


かび臭い部屋だ。

俺はベッドに横になり、天井を見つめている。

あの後、俺はタランテラのマスターにこの安宿を紹介して貰った。

 ついでに写真の女・・・・青木るみ子について聞いたが、

『知らねぇな』というばかりで何も教えてはくれなかった。

 仕方ない。

 宿を教えて貰っただけ有難く思えというところだ。

 俺は宿の主に、10日分の宿賃と、

『どこかで女を買えないか』と持ち掛け、余計にチップをはずんでやった。

 主は『ウチは上等な店なんでね』と、最初は渋っていたが、

『ここへ電話してみな』

 と、メモ用紙に電話番号だけ書いて渡した。






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ダブル・ブッキング 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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