ACT5
まるまる5日かかって、貨物船”サンタ・マリア号”は、グアダルーペの港についた。
当たり前の話だが、フィリピン政府にとっても、90%治外法権のような島だ。
直行便を横付けにしてくれる便利な飛行場などない。
え?
”武器はどうしたのか”だと?
当然持って行った。
だが、フィリピン政府だって、外国からの武器を素通しで入れてくれるほどザルじゃない。
そこはそれ、
”工作用機械部品”という名目でバラし、持ち込んだのさ。
ただ、マニラの空港を通す時、向こうの税関に鼻薬をかがせるという、法を守る探偵としては、いささか不本意な真似をしたが、悠長なことはいってられん。
グアダルーペ島は、天然の要塞と言うか、正に悪の巣窟と言うべき島だ。
その名を聞いただけで誰もしり込みをしてしまう。
そのため、週に一度しか出ない定期便を待つのに四日を有したという訳だ。
港に着いた俺は、マニラでかき集めた情報通り、
”タランテラ”と言う名前の酒場に直行した。
この酒場だけは、島に於いては、謂わば中立地帯ともいえる場所で、何処の勢力にも与していない。
ドアを開けると、猥雑な哄笑と音楽が俺を迎えてくれた。
いや、これは正確じゃないな。
俺が一歩店内に足を踏み入れると、全員の目が一斉に俺を向いた。
お世辞にも歓迎しているとはいえない。
俺はそんな眼差しを気にもせずに、カウンターの奥のどん詰まりの席に腰かけた。
口髭をたくわえ、蝶ネクタイに腕まくりをしたバーテン。(後で聞いたが、この店のマスターだそうだ)が俺の前にやって来て、
『何にするね?お客さん。』と、タガログ語訛りの強い英語で話しかけて来た。
『取り敢えず、ビール・・・・いや、バーボン、ストレートで』
マスターは何も言わず、奥へ引っ込み、やがて瓶ごと持って現れると、無造作にグラスへ注ぎ、俺の前に置いた。
『ついでに聞きたい。この女を知らないか?』
俺は懐からるみ子の写真を取り出すと、カウンターの上に置く。
『知らねぇな』素っ気ない口調が返ってきた。
『・・・・』
俺は10ドル札をきっちり5枚、写真に並べて置く。
『あんた、日本人か?』
マスターが訊ねる。
『だったらどうした?』俺が返すと、
『日本人も落ちたもんだな。昔なら帯の付いた札束でも出したもんだがな』
『昔に比べて貧乏になったのさ。それだけだ』
俺はそう言って、あと二枚10ドル札を足す。
『悪いことはいわねぇ。この島で
その時、俺の背後で何人かが動く気配がした。
俺はバーボンをゆっくり口に運ぶ。
『へい、ジャパニーズ』
また訛りのある英語だ。どうやら今度は北京語がかなり混じっている。
俺は何も答えず、グラスを口に運び続ける。
『マスターの言った言葉が聞こえなかったのか?黙ってその金をしまって帰りな』
『ノー、と答えたらどうするね?』
『表へ出て貰う。』
ゆっくり俺が振り向くと、そこにはアロハシャツを着た人相の良くない連中が五人立っており、各々拳銃やらマチェーテ(大ぶりのナタのような刃物)を構えて立っていた。
俺に声を掛けたのは、先頭に立っていた背の高い男だ。
彼はコルトM1911、通称GIコルトを構えている。
『仕方ないな』
俺はグラスを干し、両手を挙げた。
拳銃男が部下の一人に合図をする。
そいつは俺に近づくと、ボディチェックを始めようとした。
だが、俺はそいつより早くM1917を抜き、一発を拳銃男の肩に向けてお見舞いすると腕を捩じりあげてコルトを床に落とし、わき腹に銃口を突き付ける。
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