化物と天才

15年前、私は名家「月見里家」に生まれた。

日本の魔術名家に名を連ねる私の家は皆優秀であった。

平安の時代から魔術の発展に貢献し、今も尚魔術師の最前線に立つ様な一族だ。

何百、何千という長い歴史を持つ月見里家の中でも、私は最上位の才能を持っていた。


過去に2人しか使用者を確認されていない月見里の固有魔術。

世間一般で優秀と云われる魔術師を遙かに凌駕する魔力量。

魔力出力は高くはないものの、それでも6つの齢にしてそこらの魔術師の実力のはるか上をいっていた。


所謂、“天才”というやつだろう。


端的に言って当時の私は調子に乗っていた。

勿論、家の中に私より強い人は居たし、社交会にだって化物の様な人が居た。

しかし、奴らに届かないとは思わなかった。

アイツらは私の才能の延長線上にいて、成長と共に追いつき、追い越す確信があった。


私がに触れたのは9つの頃、貴族やら協会、研究室などが目ぼしい幼い魔術師に唾をつける為に開いたパーティー。

当然、月見里家を代表する次世代の魔術師として私も出席していた。

当然名家の出である私は大人たちに囲まれ、自慢話やら何やら嫌になる程聞かされた。

適当な理由をつけて、その場を離れた時、ふと私の囲みよりも多い人集りが出来ているのが見えた。


どっかの国の王子や貴族、名家の子息など様々な子供が居たが、どれも私と同じくらいの人数に声を掛けられていた。


が、今視線の先にあるその囲みは私の数倍の数の人達に囲まれていた。

囲みにいるのは魔術協会の幹部や公爵家の者だったり、名だたる実力者達だ。

それ程の者達に熱烈に言い寄られているのが誰なのか気になり、好奇心からつい輪の中へと入っていってしまった。


輪の中にいたのは1人の少女。

澄んだ青空の様な髪を持つ少女。

私は初めて彼女を見た時思った。


「化物」


一目でわかる自分との格の違い。

化物としか表しようのない才能の暴力。

自分が今まで天才と呼ばれていたのが馬鹿らしくなってしまう。

私達が天に才能を与えられたというなら、彼女の場合才能そのものだ。いや、むしろ私たちに才能を与えた側であるかもしれない。

実力の差は私の思っている以上にないだろう。

しかし、持っているポテンシャルの違いを感じざるを得なかった。


後に彼女のことを知った。

双柳蒼華。

8歳にして銀等級魔術師資格を取得し、つい先月に発表した新魔術式の論文は九つの賞を受賞していた。


その齢9つにしてあげた功績は彼女の才を裏付けるもので正直な所、当時の私は憧れてしまった。

勝手にライバル視して色々空回っていた。


私は逃してしまったけど蒼華がU-20最優秀魔術師に選ばれた時は、悔しいという気持ちはあれど、結果が間違っているなどとは思うわけがなかった。


問題はそこからだった。

蒼華は10歳という歳を機に表舞台へと立たなくなった。

まるで魔術への興味を失ったかの様に消えた。

と、思えばネット上に新たな魔術式を投稿し出して魔術界を荒らした。


魔術師の世界において、新魔術式を発表する際は本人の実演を必要とする。

そのため、蒼華のソレは蒼華の手によって作られた新魔術式として認められない。

つまりは作者不明の魔術式が大量に生まれている訳だ。


勿論、絵里にとって蒼華のネットにあげるという行動は理解できないものであったが、それよりも、なぜ蒼華は消えたのか。それが絵里にとって1番わからない事だった。


蒼華は言っていたのだ。

「この舞台で1番に立ち続ける事で私が魔術師として優れているという事を証明します」と。


なんで?言ったじゃないか。

「何?人生で初めて負けた?負けが悔しいって教えてくれてありがとう?悪いけど、私は死ぬまでこの座を譲るつもりはない。だから、1番を目指す絵里は私のライバルだね」って。


なんで?なんで?ずっと私の上に居てくれるって言ったじゃん!私と高め合いたいって言ったじゃん!なんで1人で何処かに行っちゃうんだよ。


嫌い。嫌い。貴方が嫌い。

私は貴方を否定する。

私が貴方より上だと証明する。

蒼華が新魔術式を作るたびに、対抗出来るように既存の魔術を改造した。

蒼華が方舟魔術学園に入学するという情報を聞いたから私も学園へと入った。


いいよ。蒼華。貴方が私に興味がなくても。

絶対に振り向かせてやるんだから。




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やがて魔女になる少女と魔女の弟子 双柳369 @369bell

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