貴女が嫌い。昔から。

学園の襲撃から約1ヶ月。

事情聴取やら何やら色々あったが、学生の俺の領分ではないらしく何の情報も伝えられることはなかった。


しかし、何か知りたいことがあるかと言えば無いのだから俺としては良かったのだが、蒼華は「新とかいうやつ見つけたら言え!私が張っ倒してやる!」と魔術警察に情報を強請っていた。


学園は襲撃から3日という短期間で再開し、通常通り授業を始めていた。

俺と蒼華はというと、意外と真面目に授業を受けている。


俺は昼休みと放課後は図書館で過ごし、蒼華はというと、授業以外の時間はいついつかなる時も食堂に座し、飯を食い漁っていた。

そんなに食事をしているのに家に帰ってきても晩御飯を食べるというのだから驚きだ。


「よし!完璧!」


いつもの様に寝転がらずに、行儀良くソファに座って映画を見ている蒼華のヘアメイクをしていた響が言った。


今日の朝、本に没頭していたせいで友人を作る機会をなくして学園で気軽に話せるのが文々と蒼華しかいない俺に蒼華は煽る様に言った。


「今日の夜ご飯、友達と食べるから要らない」


散々友達が居ないことを馬鹿にしてきた蒼華が言ったから、聞いた直後はイラッとしたが蒼華の言葉を反芻すると苛立ちは消え、子供を持つ母親の様な気持ちになった。


なんてったって破天荒で入学初日から試験会場を爆破してしまう様な蒼華が友達を作ってきた。

あまつさえ、一緒にディナーをする程の間柄だ。

これには流石の俺でも咽び泣く程には嬉しかった。


「響ぃ、そろそろ行くから車出してー」


先程まで蒼華がいた方を見るとテレビにはエンドロールが流れていた。

映画を見終えたのだろう。ひと段落ついたからレストランへと向かう様だ。


因みに、蒼華が今日夕飯を食べるのは日本でも有数の三つ星レストラン。

学園に通う貴族の令嬢と友人になった様で、普通なら半年待ちはするレストランの予約を取って誘ってくれたらしい。

なんともまあ、羨ましい事か。


「急ぎでよろしくぅ」


「何で?」


車を走らせながら後部座席に座る蒼華を見る。

響に急ぐ様催促しているのだが、何故だろうか?


「集合が8時で店入るのが8時20分からなんだよ?」


「はぁ?」


こいつは一体何を言ってるんだ?

今は8時28分。既に集合時間から約30分過ぎてるぞ?

こいつが悠々自適に映画なんて観てたせいで集合時間は9時とかだと勘違いしていた。

よく考えたら、こいつ時間とか守るタイプじゃなかった。


「響、やっぱ安全運転で。もう既に遅刻してるし

、ゆっくり行こう」


あろうことか、ゆっくりと行こうと言い出した蒼華に相手側に共感してしまった響は多少の悲哀を混じらせて言った。


「お前馬鹿!お前の友達可哀想過ぎるだろ!普通の遊びの約束とかならまだしも、レストランでコースって!2人分の食器が置かれてるテーブルで1人なんだぞ!?周りは皆んな恋人やら家族やらと談笑してる。その中で自分は1人待つ!地獄だ!」


アクセルを踏み、車は急激に加速する。

響達の乗る車の速さを示すかの様に赤いライトの残像が跡を残した。





###




「いいか?お前、絶対謝れよ。開口一番で謝れよ。土下座してもいい。あと、迎えが欲しかったら電話しろ。迎えに来るから」


響は口酸っぱく謝罪について言った。

蒼華の遅刻癖を見抜けなかった自分にも問題があったと反省すべき点じゃない所で反省しているのだから、気負い過ぎだろう。


「んじゃ、楽しんでこいよ」


蒼華を送り届けた響は1人の時間を楽しむ様にドライブをしながら家へと向かっていった。


「はぁ、流石に今日の遅刻はやばいなぁ」


流石の蒼華も来る途中の響の説教を受けて何か思う所があったのか、今回ばかりは反省している様だ。


「私が悪いのは勿論、あの映画が前後編なのも良くなかったなぁ」


今回の遅刻が起きた原因を探りながらレストランへと入っていく。


受付の店員は既に中にいる蒼華の友人により、蒼華の特徴を知っていた為、確認を取る事なく通した。

が、それだけではない。事前に伝えられていたから通した訳ではないのだ。


端的に言うと、受付の女性は蒼華に見惚れていた。


レースをあしらったハイウエストの黒いワンピース。

普段は化粧などしないが、蒼華の顔の良さを生かした控えめなメイクによって、いつも以上に美しさに磨きがかかっている。

リップの塗られた唇は艶やかで妖艶ささえ醸し出していた。


蒼華が店内を歩くたびに視線が集まる。

劣情や憧れ、好意や畏敬を一身に受けて、蒼華は目的のテーブルへと着いた。


「ごめん、滅茶苦茶遅刻した」


あの蒼華が謝る事があるのか、と驚きながらも一般的なセオリー通りに言った。


「全然大丈夫だよー、私もさっき着いた所だし」


『嫌悪』月見里つきみさと絵里えりは笑みを浮かべて何事もないかの様に対応した。

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