襲撃④
「よお!響、元気そうだな」
煙を吐き笑う円香は俺の何処を見てそう思ったんだろうか?
血出まくってるし、やばい女に馬乗りにされてる状況の何処が元気そうなんだろうか?
いや、もしかしてそういうプレイだと思ってんのか?
だとしても、野外×暴力×学園って特殊過ぎるだろ……
「取り敢えず助けてくれ」
響は円香に向かって言う。
距離が離れている為、響の言葉が聞こえたのかは定かではないが、円香はOK、と呟き、咥えていた煙草を地面に捨てた。
そして煙草の火を消す様に靴でグリグリと踏みつけて響の方へと向き直った。
「ふぅー」
軽く息を吐き、呼吸を整える。
と共にダンッ!と地面を蹴る音が鳴り、円香は風の様に走り出した。
目の前にいる八咫烏の魔術師など相手にする必要のないかの様に響の所まで一直線にである。
しかし結論から言うと、円香は八咫烏の魔術師達を無視した訳ではなかった。
つまり、何が言いたいかというと円香は響の元へと向かう間、八咫烏の魔術師達とすれ違う数巡の間に現れた魔術師達を制圧した。
その場にいた右京を除く魔術師達がその事に気づいたのは斎が円香の拳を両の手で受けた時だろう。
円香の攻撃を避ける、又は受けるのに響の上に乗った不完全な体勢では無理と判断した斎は飛び退き、円香が狙ってくるであろう箇所を防御した。
斎の予想通り、左胸を射抜く筈だった円香の手刀は斎の腕に阻まれ、中指が胸の肉に数cmだけ刺さる結果に終わった。
「へえ、やるじゃん。無駄な肉削いでやろうと思ったのに」
「妬みはやめてよ〜」
側から見たら軽く談笑している様にさえ見えるが、寝転んだままの響には彼女達の目に一切の光が宿っていないのが見えてしまった。
「斎!魔術警察も集まってきた!流石に分が悪い!」
鞍馬は右京の攻撃から逃れる様に斎へと寄る。
斎もまた円香から目を離さず同方向へと飛びずさる。
「それじゃ、またね〜。少年〜」
鞍馬と斎は禍々しい門を出現させてその中へと飛び込んだ。
その先が何処へ繋がっているのかは分からない。
しかし、それが彼らの逃走手段である事は間違いなかった。
響も右京も円香も深追いせずに彼らが逃げるのをただただ眺めていた。
やがて門は閉じ、先程までの襲撃が嘘だったかの様に暗鬱な魔力が晴れた。
「連れ帰らなかったのを見ると、あの魔術師達は八咫烏ですらない使い捨てだな」
「にしては、強うなかったか?」
「八咫烏お得意の呪術かなぁ」
初対面なのにやけに仲良く話す円香と右京を無視して、響は面倒臭そうに歩き出した。
校内の危険はなくなったが八咫烏とかいうのも全員帰った訳じゃなさそうだ。
だって、まだ海でドンパチやってるしなぁ。
東門から遠く離れた海の先、火やら水やら斬撃やら、まさしく戦いの最中であると主張する様に魔術が飛び交っていた。
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「ん?あいつら先に帰りよった!?」
蒼華とアカネと魔術の撃ち合いをしながら、学園の方を見て新が驚く。
2人を相手にしながら余裕があるのかと蒼華は憤り、踏み込む。
が、しかし、アカネによってそれは阻まれる。
何かを感じたアカネが今、新に近づくのは良くないと蒼華の腕を掴んだからだ。
アカネの勘は正しかった。
アカネが止めずに蒼華が新に近接戦を仕掛けていたら、蒼華は連れ去られていただろう。
鞍馬と斎が逃走に使ったものと同じ、禍々しい門が海上に現れた。
「魔術警察はせんないし、学園を落とすなら文々栞からやな」
蒼華やアカネの耳にも入らない程小さな呟き。
新は門を潜り蒼華達に向き直り、笑みを浮かべながら手を振る。
「ほな!別嬪さん達と遊べて楽しかったで〜」
新は門と共に消えていった。
その余裕綽々とした姿に蒼華は地団駄を踏んで叫ぶ。
「くそー!あの嘘くさクズ野郎がァー!」
「まあまあ、蒼華ちゃん一件落着という事だし」
アカネに宥められ、落ち着きを取り戻す。
が、最後の新の顔を思い出して、再び苛立ちが湧き上がってくる。
「くそぉ、次会ったら覚えてろよォー!!!!」
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