襲撃③
「やばい!やばい!やばい!」
何がやばいって幹部の2人だ。
逃げる前に実力を測ろうと軽く受けてみたが、想定していた威力の5倍は強かった。
辛うじて受け流す事は出来たが、俺を通して伝った衝撃でコンクリの道路がバキバキに壊れていた。受け流してそれなのだ。
正面から受けたら、それこそ一発意識を刈り取られるだろう。
男の方は刻印魔術師っぽい挙動、女はどちらもイケる万能型。
刻印魔術師だと思わせておいて顕現魔術師だったり、その逆だったりする場合もある為、相手の戦闘スタイルを決めつけるのは良くないのだが、どう戦うかと考える上で戦術を見極めておくのは戦闘において必要な事である。
響の数メートル後ろを追走する2人の幹部。
どちらも遅れる事なく、追って来れるのは平均以上に刻印魔術を扱える証拠である。
響が向かう先は東地区。
幹部から逃げながら東地区にいる魔術師の数を減らし、学園の生徒でも対処可能なレベルまで削ろうとしている訳だ。
東地区の魔術師に関しては右京が制圧している為、完全に無駄な思考なのだが、この時響が東地区に向かったのは良手であった。
響は背後から牽制として飛ばされる顕現魔術を躱しながら走り東地区へと到着する。
そこで壁の中へと入ろうと響が減速し方向転換した瞬間に男の幹部『
今まで走って逃げる事に集中していた為、響は鞍馬の蹴りを避ける事が出来ず、東門を突き抜けて東地区へと蹴り飛ばされた。
攻撃を喰らった左腕が赤く腫れているが、見た目ほどの傷ではない。
響は攻撃を喰らう事は織り込み済みであり、見事に受け身をとりダメージを最小限に抑えていたのだ。
今の攻撃を受け、相手の実力が
2人同時に相手した場合なら勝つ事はおろか、時間稼ぎに徹しても20分保たずに拘束されるだろう。
敗色濃厚である響に鶴の一声がかかる。
「えーと確か双柳ん所の響やんな?何しとん?」
声のした方向を振り返ると、そこには八咫烏の魔術師らしき者達が積み重ねられており、その頂上にオルヴィスの従者『近衛右京』が座っていた。
「あれ、マントマン」
「?、うちの名前は右京やで」
「その、下の人達って右京が倒したの?」
「せやで、うちがボコボコにしてやった」
どうにかして幹部達と戦いながら魔術師を一掃しようと考えいた響からしたら、右京の行動は救いであった。
響は手を合わせ祈りを捧げる様なポーズをして目を輝かせて右京を賞賛しまくった。
そんな響の姿を見て右京は上機嫌になる。
そして視線をずらし、迫ってくる大物へと向く。
「なんや?偉い強そうな奴ら来おったで」
「追われててさ、俺じゃ相手にならないから助けてよ」
幹部との戦いに右京も巻き込む為に、下手に出て助けを乞う。
そんな響の狙いは成功し、
「任せとき!うちが倒したるで!」
見事に乗せられた右京は鼻息をむふっーと吐きながら、積み重なった魔術師の山から飛び降りて幹部と相対する。
これで勝機が見えたと響も右京の隣に並び立つ。
「負けを認めてるなら今の内だぞ?我らが右京さんからしたら、お前らなんて相手にすらならないからなァ!」
響はまるで下っ端ヤンキーの様に威嚇する。
三下ムーブがハマり過ぎている故に、幹部2人は響に対し惨めで情けない印象を抱いた。
響はその間も思考を怠らない。
(あと3分46秒)
「君の言う右京さんより、俺の方が強いから降参はしない」
真面目さに定評のある男『鞍馬』が言う。
彼の発言に1人納得がいかず、苛立ちが募っている人物がいた。
引き合いに出された当事者。近衛右京である。
見た目、というか、マントから見て分かる様に右京は自身を最強だと信じている。
それ故に他人に見下されるのを許容しない。許容できない。
つまるところ、鞍馬は右京の標的となった。
「そこの兄ちゃん、あんましうちを舐めとると痛い目見るで」
「事実だ」
右京はボクサーの様にピョンピョンと跳ねている。
右京の戦闘スタイルは武器などを一切持たない徒手空拳だ。
魔力の質と身に纏う雰囲気から右京が戦闘態勢に入っている事は分かるが、当の右京自身は構えもせずに腕をだらりと弛緩させた状態でいる。
既に戦闘を始めた響と女幹部『
一触即発。張り詰めた空気が鞍馬に走る。
と、同時に
右京の体がブレる。
鞍馬の目には右京がブレただけで動いた様には見えなかった。
しかし、右京の拳は既に鞍馬の頬にめり込んでいる。
鞍馬が殴られた事に気づいたのは、頬が腫れ、床に倒れ込んで時だっただろう。
視界はボヤけて視点が定まらない。
刻印魔術で強化した筈なのにダメージを抑えられた気がしない。
足元がおぼつかず、立つことすらままならない。
たった一撃でソレなのだ。
鞍馬は正面から右京と殴り合うのは不可能だと悟った。
何よりベンチに足を組んで座って、ニヤニヤと鞍馬を眺める右京を見て格上だと感じてしまった。
「先ほどの言葉を撤回するよ。どうやら、君は俺より強い様だ」
鞍馬がそう言うと右京は「やっと分かったか」と言わんばかりに笑みを浮かべ立ち上がった。
「宜しい。相手したる」
###
(あと1分14秒)
響は雨の様に降り注ぐ魔術を躱し続ける。
斎は響の姿が視界に入り続ける様、空へと浮かび上から魔術を放っている。
空中に浮かぶ、又は飛ぶ、飛行魔術は燃費が悪く並の魔術師ではすぐに魔力が切れて立つ事すらままならなくなっていしまう。
にも関わらず、空を飛びながら顕現魔術を使い続けていても魔力が尽きる様子のない斎は非凡であるといえよう。
が、たとえ実力差があろうと守りや時間稼ぎに徹すれば相手取る事も出来る。
しかし、それでもやはり限界がある。
ギリギリの所で避け続けていた魔術も疲労により少しずつ当たり始める。
足や腕、頬に擦り傷が生まれ、血が垂れる。
(あと46秒)
大丈夫。問題ない。
このペースなら多少の攻撃は喰らうだろうけど、完全に負けるまでには間に合う。
勝ちを確信し始めている響の思いとは裏腹に更なる想定外が現れる。
斎が指をパチンと鳴らし、合図する。
攻撃を避けるのに手一杯な響には彼女の行動を見守ることしか出来なかった。
数秒後、彼女の行動の意図が見える。
「!?」
突如現れた強大な魔力群。
現れたのは東門付近。
右京が制圧した魔術師と同程度の実力だろう。
響や右京ならば倒す事は難しくないが、幹部を相手にしながら全員を逃さず学園を守るとなると途端に難易度が上がる。
「ッチ!」
響は多少の被弾を覚悟に斎の弾幕を抜けて東門へと向かう。
しかしそんな愚挙が許されるはずもなく───
「しょうねーん、つっかまえたー!」
斎は空から響へと一直線に勢いをつけて飛び、馬乗りになる。
「よし!じゃあ、お姉さんと帰ろうか〜」
「あと5秒」
「ん?なんて?」
「俺の勝ち」
響がそう言ったのと同時に破られた結界が修復した。
“結界が直った”という事は文々が自由に動ける様になったという事である。
「結界が直ったって、君を連れてくのに支障はないよ〜?」
そうだ。確かに結界の修復により学園の破壊という目的は防げても響の回収を行うのには何ら支障はない。
が、想定内である。
「おいおい、平日の真っ昼間から盛んなよ」
八咫烏の魔術師達の更に先、東門の先に1人の女が立っていた。
くすんだ金髪に虎のスカジャン。
への字に結ばれた口に咥えられた一本の紙煙草。
「よお!響、元気そうだな」
現れたのは他でもない非魔術世界と魔術世界を取り締まる魔術警察の幹部。九七十円香であった。
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