【短編/1話完結】実家のタイムカプセル

茉莉多 真遊人

本編

 母が天国に旅立った。既に父も旅立ち済みである。


「ちょっと兄さん、ボーっとしてないで早くしちゃおうよ」


 そして今、実家の片付けである。


 私は3人兄妹の長男で、妹が2人いる。下の妹は地元で結婚しており、実家が夫婦の仕事場から近いということで下の妹夫婦に譲ることにした。


 私も上の妹も帰省して片付けに参加していた。久々に兄妹3人が揃った気もする。


「母さんは物を貯めこむタイプだったからね」


 それは違うんだよ。


「特に奥の方なんて……ん?」


「どうしたの?」


「この3つ、それぞれのおもちゃ箱じゃない?」


 押入れの奥の奥、そこには見覚えのある箱が3つ並んでいた。


 青地に黄色い星が散りばめられた私のおもちゃ箱、白地に大きなピンクのハートが1つある上の妹のおもちゃ箱、ピンク地にキラキラシールをこれでもかと貼り付けられた下の妹のおもちゃ箱。


 どれも捨てたとばかり思っていたものだった。


 おもちゃ箱を取り出して開けてみると、そこに入っていたものは自分たちのおもちゃではなく、自分たちが両親に贈った手紙や工作、絵日記などの思い出の品だった。


 それぞれが1つずつ自分の贈ったものを眺めている。


「おかあさんへの「へ」が「え」になってる」


「私なんか、「あ」にも「お」みたいな点がついてる」


 妹たちの話を横目に私は自分の贈った手紙や工作をじっくりと眺めている。


「兄さんは本当、父さんに似て喋らないわよね」


「逆に私たちは母さんに似てお喋りになってるけどね」


「……そうだな」


「どうする?」


「どうするも何も捨てるしかないでしょ」


「いや、俺は箱ごと持って帰るよ」


 私はそう言って持って帰った。


 それから10年、押し入れの中にしまい込んだ私のおもちゃ箱の隣には、私の息子が使わなくなったおもちゃ箱が置かれている。そのおもちゃ箱の中身は私のおもちゃ箱と同様である。


 私は当時のことを鮮明に覚えている。


 このおもちゃ箱に思い出を入れていたのは、母ではなく、父だった、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編/1話完結】実家のタイムカプセル 茉莉多 真遊人 @Mayuto_Matsurita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ